コラム

CIA元諜報員が「生成AIはスパイ組織の夢のツール」と明言する理由

2023年06月01日(木)12時10分

230606p24_CAL_02.jpg

逃亡犯条例改正案など中国政府による統治強化に抗議する香港のデモ隊(2019年6月9日) TYRONE SIUーREUTERS

■2019年香港 この年、数百万人の民主派が中国政府による全体主義的統治の押し付けに反対して大規模なデモを繰り広げた。中国の情報機関はソーシャルメディアで偽情報を駆使してデモ隊の暴力を誇張し、彼らの信用を落とし、香港情勢に対する中国国内と国際社会の認識を変えようとした。

中国政府は200万人とも言われる工作員を雇ってプロパガンダをソーシャルメディアに投稿させ、4億4800万件のコメントを捏造したという。そして香港は自由を失った。

生成AIによる工作はこの2つに比べても、桁外れに強力なものになるだろう。

不完全だが、そのリスクを軽減する手段はいくつかある。メディアリテラシー向上、全ての生成AIへの「識別子」義務付け、ソーシャルメディアプラットフォームにおける本人確認の必須化、オープンAIのアルトマンが米議会で呼びかけたような政府による生成AIへの規制。ただし、いずれも効果は限定的で、プライバシーや言論の自由、効率性の低下に関わる問題を引き起こす。

これは私見だが、16年のアメリカや19年の香港よりもはるかにひどい情報操作のリスクに対抗するため、何らかの形で政府が生成AIを規制する段階に来ていると思う。「制限なき生成AI」は全体主義体制の情報機関に悪用される危険と背中合わせだ。それがもたらす未来は過去の秘密工作が前時代の遺物に見えるレベルで、真実と自由と民主主義を危険にさらすだろう。

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、アフリカへの関与拡大 安全保障含め協力強化

ワールド

「強いストレスが引き金」、トランプ氏との確執巡りマ

ビジネス

マレーシア、7月から消費税改正 サービス税拡大

ビジネス

中国発ECシーイン、インドで生産強化 1年以内の海
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story