コラム

2年乗った車が購入時よりも高く売れるアメリカ、限度を超えたインフレの行方

2022年06月28日(火)13時43分
インフレーション

ニューヨーク・マンハッタンのスーパーで商品棚を見つめる買い物客(6月10日) ANDREW KELLYーREUTERS

<製品の供給不足など不安材料を抱えつつも、好景気に沸くアメリカ。人手不足が賃上げと物価上昇を起こし、「インフレスパイラル」に。今後2年以内に予想される景気後退に備えて、政策はどうあるべきか?>

私たち家族の日々の暮らしでモノの値段が急激に上昇していることを最初に察知したのは、同居している86歳の義母だった。

第2次大戦中の子供時代に香港で生活していたとき、自宅のすぐそばでイギリス軍と日本軍の戦闘を目の当たりにした経験を持つ義母は、用心深い倹約家の女性に育った。昨年終盤くらいから肉と野菜の値段が大きく値上がりし始めると、すぐに目に留めるようになり、「高すぎる!」と、家族で近所の食料品店に買い物に行ったときに不満を述べた。

義母にとって、肉と野菜の値段は、世界で何が起きているかを映す鏡だ。そしてこの数カ月、義母は食材の価格が高くなっていると感じている。

その感覚は正しい。アメリカではこの1年間で、牛肉の価格が13.8%、卵の価格が11.2%上昇している。もっとも、義母の皮膚感覚ではもっと大幅に食材が値上がりしているように感じているだろう。

ボストン郊外のわが家では、物価対策として家庭菜園での野菜づくりにもっと力を入れることも検討し始めている(さすがに、体重60キロのアラスカンマラミュート犬がいる家の庭でニワトリを飼うことまでは考えていないが)。

220705p22_CALchart.jpg

いまアメリカ経済は好景気に沸いている。しかし、物価上昇、労働力不足、製品の供給不足、貿易とエネルギー供給を脅かす国際的な危機、政府の金融・財政政策など、経済に深刻なリスクを及ぼしかねない要因は多い。向こう2年の間に、アメリカ経済が景気後退に陥る可能性も否定できない。

最近、アメリカではインフレが急速に進行している。5月の物価上昇率は8.6%。これは1981年12月以降で最も高い値だ。物価問題は、今年11月の中間選挙でジョー・バイデン大統領率いる与党・民主党にとって最大の脅威になっている。

ガソリン高騰が身に染みる

一般国民が自分たちの暮らし向きの良し悪しについて判断する基準になるのは、無味乾燥なインフレ率のデータよりも、食料費、エネルギー費、住宅費の動向だ(この3つの要素はアメリカの家計支出のそれぞれ29%、13%、10%を占めている)。

このいわば「庶民版」インフレ指数に照らしても、ほとんどのアメリカ人にとって物価状況は極めて厳しいと言えそうだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story