コラム

トランプ政権の腐敗を暴くボルトン回顧録の破壊力、しかしその動機は「肥大した自尊心」

2020年06月30日(火)18時20分

ボルトンは常に自分が一番賢いと思っている JONATHAN DRAKE-REUTERS

<回顧録はボルトンの性格やこれまでの仕事ぶりそのもの。トランプ政権の腐敗を白日の下に晒し、一翼を担った自身をそこから切り離すことが本書の狙いだ>

1冊の回顧録がトランプ米政権の危険性に警鐘を鳴らしている。著者のジョン・ボルトンは国家安全保障担当の大統領補佐官として、トランプ大統領に17カ月間仕えた人物だ。

国務省とCIAの元同僚の多くは(そして私も間接的に)、ブッシュ政権時代にボルトンと関わりがあった。偽りの証拠に基づきイラク侵攻を主張した狂信者や戦争屋主体の政権の中でも、ボルトンは最も冷酷でイデオロギー的に硬直した人物だった。私の同僚たちについて嘘をつき、事実をごまかし、自分が提唱する政策の結果について延々と妄想し続けていた。

ボルトンはホワイトハウスを去った後、回顧録『それが起きた部屋』でトランプに攻撃を仕掛けた。だが、今さらトランプは大統領として完全に「職務不適格」であり、アメリカにとって極めて危険な存在だと言われても、素直に評価する気になれない。

この回顧録はボルトンの性格やこれまでの仕事ぶりそのものだ。傲慢な態度と狂信的なイデオロギー、そこから来る過剰な自信が本書からもよく分かる。

傲慢さ

ボルトンは常に自分が一番賢いと思っている。ニューヨーク・タイムズ紙の表現を借りれば、この全576ページの本は「肥大した自尊心」の塊だ。ボルトンはトランプへの軽蔑を隠さず、その腐敗ぶりを説得力のある筆致で明らかにしている。

例えば、トランプがウクライナの大統領を脅し、民主党の有力な大統領候補であるバイデン前副大統領への攻撃材料を手に入れようとしたという疑惑を、ボルトンは本の中で追認している。これはまさにトランプの弾劾理由そのものだ。しかし、ボルトンは17カ月間、腐敗した危険人物と知りながらトランプを支えていたのだ。

イデオロギー

ボルトンのような新保守主義者(ネオコン)は、自国の国益最優先の攻撃的外交を追求し、武力行使も辞さない。ボルトンは何十年もの間、イランと北朝鮮の体制転覆を最重要目標としてきた。

回顧録によれば、イランの革命防衛隊がアメリカの無人機を撃墜したことへの報復として、イラン国内の複数の標的を爆撃する案が検討されたが、トランプは土壇場で取りやめたという。それが辞任の理由だったと、ボルトンは述べている。

原理原則に基づく行動にも見えるが、ボルトンは一貫して原理原則に忠実だったわけではない。トランプは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に対し、「たくさんの大豆」を買って再選を助けてほしいと頼んだ。私に言わせれば国家反逆罪級の違法行為だが、ボルトンは辞任しなかった。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story