コラム

元CIA工作員が占う2020年の世界――危険な「伝統回帰」が戦後秩序を崩壊させる

2020年01月17日(金)18時30分

シリアの内戦は温暖化 と人口増が原因(首都 ダマスカス近郊) AMMAR AL BUSHYーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<人の移動と技術の進歩と温顔化が促す「血と土と紙」信奉で、政治経済のバランスが崩れ始めた――本誌年末合併号「ISSUES 2020」特集より>

あの時は気付かなかったが、筆者は1987年に未来の世界と遭遇していた。

2019123120200107issue_cover200.jpg

パリの路地裏の目立たない食堂で、ある情報源の男と接触していた時のこと。男は極右の有力政治家で、機械と外国人がヨーロッパの魂を破壊していると熱く語った。

こいつを止めるには、よそ者を追い出し、ヨーロッパを再び純化して「血と土と神」でつながる民族意識を高めるしかない。彼はそう言った。

いや、そういう思想は第二次大戦で犠牲になった8000万の命が否定したはずだと反論しても、彼は頑として譲らなかった。

しかしその後の歳月を通じて、私は気付かされた。およそ共通点などありそうもない多くの男たちが同じような信念を抱き、同じような行動に走っている事実に。

テロリストのウサマ・ビンラディンもナショナリストのウラジーミル・プーチンも、ハンガリー首相で隠れファシストのオルバン・ビクトルもそう。「アメリカ第一主義」のドナルド・トランプや、毛沢東より歴代の皇帝に似てきた習近平(シー・チンピン)もそうだ。

彼らの思想と行動を形成してきた過去30年の歴史を振り返れば、2020年以降に私たちが生きねばならない世界がどうなるか、およその見当はつく。西洋社会の「リベラル」な経済的・社会的・政治的価値観は20年以降、かつてないほど強力な挑戦を受けることになる。

ルールに基づく秩序を敵視する傾向が強まった背景には、国境を超えた3つの大きなトレンドがあり、それぞれがもたらす3つの大きな変化がある。そして今のところ、この「変化の6騎士」に太刀打ちできる国家は出現していない。

人口・技術・温暖化の流れ

国の人口は、国力と国際的な影響力を左右する。中国は生産性も富も日本よりはるかに低いが、人口は10倍を超えている。だからあの国は、世界が避けて通れない怪物だ。ただし政治、社会、経済の動向を見極める上で重要なのは人口動態だ。

中国では既に労働人口が減りつつある。11年にピークに達した後は急速に高齢化も進んでいる。ヨーロッパはもっと切実だ。既に死亡率が出生率を上回っており、世界の人口に占める割合は60年代から半減の6.9%。

中東欧ではソ連崩壊以降、人口流出もあり人口減少が深刻な問題だ。逆に、欧州とアジアをつなぐ中東地域では、国家も経済も破綻しているのに人口だけは増える。35年までに35%ほど増えるだろう。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story