コラム

「陰」のナショナリズムが流行る時──250年の歴史の中で

2019年11月18日(月)19時25分

新天皇の即位を祝うパレードもナショナリズムの発露の1つだ KIM KYUNG HOON-REUTERS

<80年代後半、私は日本人ナショナリストから、アメリカ人と日本人が「世界を支配」すべきと言われたことがある。ナショナリズムとは何か>

国を愛する心、つまりナショナリズムは社会秩序の基礎であり、国民の誇りと社会的帰属意識の健全な表れと言っていいだろう。日本では11月10日、天皇の即位を祝うパレード「祝賀御列の儀」が行われ、およそ12万人が沿道を埋めた。

アメリカでは翌11日、第一次大戦終結を記念して設けられた「退役軍人の日」を迎え、民家や銀行、高速道路の陸橋などあらゆる場所に国旗が掲げられた。

一方で、ナショナリズムは「他者」の排除を正当化する手段にもなる。トランプ米大統領のスローガン「アメリカ・ファースト」は、もともと1930年代にアメリカのナショナリストと白人至上主義者が考案した排外主義的なフレーズだ。中国共産党は国民の支持を固める手段の1つとして、日本と欧米による過去の悪行を並べ立て、ナショナリストの怒りをあおる。

では、ナショナリズムとは何か。「良い」ナショナリズムと「悪い」ナショナリズムの区別はあるのか。

ナショナリズムの歴史は意外にも250年程度しかない。18世紀後半にアメリカ独立革命とフランス革命が「人民」の権利を宣言し、市民権と国民意識のよりどころとしたのが最初の発露だった。それ以前、国は王朝や宗教と結び付いていた。

「われわれ」が幅を利かせる時代

今のような国民(ネーション)の概念は、ルネサンスと産業革命を経て進化してきた。封建制の衰退、宗教の弱体化と政教分離、商業や理性主義の台頭......。全ての変化が社会組織の中心に個人の権利を置く人民主権の強化につながり、その結果として国民国家(ネーションステート)が誕生した。ナポレオンの侵略は欧州全体に国民意識の概念を広げ、さらにヨーロッパの帝国が植民地を通じて世界へ拡散した。

大まかに言って、ナショナリズムには2つの種類がある。1つは18世紀の2つの革命が体現した「理性の時代」の理想と規範を中心に置くナショナリズム運動だ。そこで強調されるのは個人の普遍的権利、法の下の平等、民主主義の勝利であり、人種、民族、宗教は背景に退いた。

しかし、全ての物事には陰と陽がある。理性は徐々に力を失い、もっと深い心理的衝動が台頭した。フランスのポピュリズム政党・国民連合(旧・国民戦線)は何十年も前から、この衝動に基づく民族的・人種的ナショナリズムを訴え続けてきたが、それが今や世界各国で政治の前面に躍り出ている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story