コラム

NYタイムズも過激と評した「集団自決」論を説き続ける成田氏は何がしたいのか

2023年02月22日(水)16時58分

普通の大人であれば、「そんな考えは絶対に持ってはいけない」と子どもを説諭するところだ。しかし成田氏は、自分は高齢者に自決を要求したのではなく、「切腹が社会保障改革の最短経路」と言ったことはあると前置きしたうえで、「(老人が自動でいなくなるシステムは)ありうる未来」だと述べる。そして、一定の年齢に達した高齢者の生命が奪われるいくつかの映画作品の設定に言及したのちに、「それが良いと思うなら、そういう社会を作るよう頑張ればよい」と伝えたのだった。


成田氏は、「老人が自動でいなくなるシステム」の善悪判断を保留する。しかしここは大人であれば、はっきりと悪であることを主張する場面だろう。彼が「老人は実際退散した方がいい」と主張した子供に対して「それが良いと思うなら、そういう社会を作るよう頑張ればよい」と事実上の後押しをしてしまった事実は重い。その場にいた子供たちは、社会システムとして大量虐殺を企図することは問題ないと学習してしまったのだ。

企画会場には、ひろゆき氏、番組プロデューサーの高橋弘樹氏を始め、何人かの大人たちがいた。しかし少なくともこの動画内では、この少年や周囲の子供たちに対して何らかのフォローがなされた形跡は見られなかった。高橋弘樹氏は、「日経テレ東大学」の看板番組に『Re:Hack』を企画し、成田悠輔氏を世に出した立役者ともいえる。その立役者は、大人としての責任を放棄した大人だったのだ。

「老人が自動でいなくなるシステム」

「老人が自動でいなくなるシステム」という少年が発した表現は、まさに20世紀以降の大量虐殺の本質をついている。だからこそ、この言葉は即座に否定されなければならなかった。ナチスのユダヤ人虐殺は、その虐殺という言葉の禍々しさとは裏腹に、工学的に洗練され効率的に人を殺すことができるシステムによって実行されていた。そのシステムを設計したのは、優秀な科学者やエンジニアであった。アウシュヴィッツ収容所は人間の理性や文明化過程の一つの帰結に他ならないと、ドイツの哲学者アドルノは述べた。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インテル、サンバノバへの追加投資計画 タンCEOが

ワールド

トランプ氏、イランを「極めて厳しく」攻撃へ 今後2

ワールド

イラン戦争の戦略目標は「達成間近」、トランプ氏が国

ビジネス

ファイザーとビオンテック、コロナワクチン改良版の臨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story