コラム

高市大臣の「8割大陸」発言、曖昧決着は許されない

2022年10月17日(月)16時43分

高市大臣も、講演の内容については、クローズドな会合であったとして明らかにはしていない。講演の内容が実際はどうだったのかが明らかになっていない以上、「国葬反対8割大陸」発言の疑惑が晴れることはない。

高市大臣は、そもそも「大陸」という言葉を自分は使わないと述べている。しかし「大陸」は中国を表す隠語であって、高市大臣は中国あるいは別の中国を表現する言葉を言ったのを、小林議員が言い換えただけかもしれない。先に取り上げた小林議員とは別の講演報告ツイートでは、「支那」という中国に対する差別用語が使われている。「大陸」という言葉があったか否かは重要なポイントではない。

言葉を濁す他の参加者

AERAの取材によれば、会合に出席した他の地方議員たちは、その多くがはっきりした否定の言葉を述べていないという。「記憶にない」「席を外していた」など曖昧な返答が並ぶ。しかし一人だけある市議が、高市大臣の「個人的な感想」として「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸の人かなと思っている」といった発言があったと証言している。この市議は、それは大臣による参加者への「リップサービス」ではなかったか、と想像している。

この市議の証言や先述のスクリーンショットのことを考えると、一字一句同じではないとしても、「国葬反対8割大陸」に相当する何らかの発言はやはりあったのではないか、と考えてもよさそうだ。


高市大臣は安倍元首相に近かった政治家で、講演の会場には安倍元首相の遺影なども置かれていたという。従って安倍元首相の国葬に関してリップサービスをしてしまうことはあり得るのは理解できる。

しかしながら、クローズドな場のジョークだったとしても、安倍元首相の国葬に反対していたのは海の向こうの「敵」なのだという排外主義思考に基づくジョークは現役大臣として許されるものではない。また、排外主義的なリップサービスが求められてしまう「日本会議東海地方議員連盟設立総会」なる会合がそもそも問題だったのではないかという見方もできる。

小林貴虎議員は発言の責任を取って三重県議会の戦略企画雇用経済常任委員会の委員長を辞任し、なお党や議会の処分を待つ身分だ。小林議員の発言が根も葉もないものだったとした場合、大きなスキャンダルを捏造された高市早苗大臣はもっと怒ってもよさそうなものだが、大臣は「大切な自民党の来年の候補予定者なので、ここまでにしたい」と曖昧な決着を示唆する発言をしている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、ガザ病院攻撃に遺憾の意 「目標はハ

ワールド

中国は200%の関税に直面、磁石供給しなければ ト

ワールド

金正恩氏と年内に会談したい=トランプ氏

ビジネス

米7月新築住宅販売0.6%減65.2万戸、住宅市場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story