コラム

「国葬」は露骨で危険な安倍崇拝の儀式だった

2022年09月29日(木)18時49分

菅元首相が友人代表として行ったスピーチは「エモい」と評判が良かったようだが(9月27日、東京の日本武道館) Eugene Hoshiko/ REUTERS

<「民主主義の危機を乗り越える」という岸田首相の掛け声とは裏腹に、「国家」という言葉ばかりが目立つ権威主義と安倍元首相の熱狂的ファンの集いとなったことには引き続き批判と検証が必要だ>

9月27日、安倍元首相の国葬が日本武道館にて執り行われた。この国葬が本来行われるべきではない行事であるのは、このコラムで繰り返し書き連ねてきた通りだ。そのうえで行われたこの国葬を、筆者は中継や夜のニュースで見てみたのだが、内容面でも極めて問題があるイベントであった。

「民主主義を守る」という建前はどこへ

安倍元首相の国葬を行う建前の一つは、安倍元首相が民主的な選挙の過程で凶弾に倒れたということにあった。この民主主義の危機を国葬によって乗り越えるべきだというのだ。山上容疑者の動機から言ってもこの理屈が詭弁であるということは別記事でも述べているが、それでもこうした建前を取る以上、国葬イベントは民主国家の理念に適う内実を持つべきだっただろう。

<筆者による関連記事>
安倍元首相の国葬に反対する
岸田政権は潔く国葬を撤回せよ
国葬強行による安倍元首相の神格化を許すな

しかし、実際に行われた国葬は、日本国憲法に書かれているような近代的な民主主義の理念とはかけ離れた、国家主義的・権威主義的・民族主義的な内容のイベントだった。自衛隊が至る所で活用され、追悼の辞では「自由」や「民主主義」、「人権」というキーワードではなく、「国家」、「日本」という保守派に媚びたようなキーワードが目立った。踏み込んでいえば、安倍元首相を個人崇拝する右派グループの安倍晋三とのお別れ会を、税金を使って行ってあげたようなものだった。

筆者は各国の国葬を「詳らかに」検討したわけではないが、せっかく日本は敗戦によって明治以降の権威主義体制と断絶したのだから、より市民的・民衆本位的な演出を取り入れることもできただろうと思う。しかし誰が企画したのかは分からないが、安倍元首相の国葬は、権威主義的な指導者に対するそれのカリカチュアのようにみえた。列席する男性たちが、民衆ではなく、高みにある故人の遺影と向き合い、その全人格を褒め称えるのだ。

個人崇拝の内輪向けイベント

とりわけ筆者が閉口したのは、安倍氏の政治家としての歩みを振り返る、およそ8分の尺があるVTR映像だ。安倍元首相の生前の映像とともに、彼の政治家としての「業績」が振り返られるのだが、そこでは現在でもなお政治的には論争的な内容が、全て「業績」としてカウントされている。もちろん明白な失敗や問題発言は省かれており、あたかも安倍元首相は無謬の政治家と言わんばかりの編集だった。

しかも長い。特に緩急があるわけでもない映像を緩急がないメロディに乗せて8分間も流されて耐えられるのは、安倍晋三の余程のファンだけだろう。仮にあのVTRが3分に纏められていたとすれば、少なくとも演出としては理解できる。しかし8分という長さであの映像を編集したというところに、このイベントの「内輪向け」感が強く出ていると思うのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB金利据え置き、中東情勢の不確実性指摘 年内利

ワールド

原油先物5%上昇、IRGCが複数のエネルギー施設攻

ワールド

中国、27年までの台湾侵攻計画せず 米情報機関が分

ワールド

イラン新指導者「犯罪者は代償支払う」、政権幹部ラリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポリ」が中東へ
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 9
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story