コラム

コートジボワール、内戦に突入

2011年04月05日(火)19時04分

大統領公邸に集まるバグボ派の若者

人間の盾? 最大都市アビジャンの大統領公邸に集まるバグボ派の
若者グループ(3月26日) Thierry Gouegnon-Reuters


 虐殺、傭兵、包囲された都市、人道危機の悪夢――コートジボワールで再び内戦が始まった。昨年11月の大統領選で勝利したアラサン・ワタラ元首相と、敗北後も大統領の座に居座るバグボの間で対立が続くなか、先週にはついに全国規模の戦闘に発展。まさに最悪のシナリオだ。

 ワタラ派の武装勢力は先週、リベリアとの国境に近い西部の町ドゥエクエを制圧。週末にかけて、戦闘の犠牲者数は信じ難い数に上っている。赤十字国際委員会は4月1日、死者数が約800人に達したと発表したが、カトリック教会の社会福祉部門・国際カリタスは1000人と推定している。

 現地にいるBBCの記者アンドリュー・ハーディングによれば、町の通りを数ブロック歩くだけで20体近い死体が転がっており、なかには子供もいたという。

 ワタラ派勢力は、騒乱の中で地元の武装勢力が内紛を起こしたと主張。犠牲者数も赤十字国際委員会などより少なく見積もっている。一方、コートジボワール政府当局は国連平和維持軍が不在だったために混乱が起きたと非難している。

■なす術もなく傍観する国際社会

 最大都市のアビジャンでも、銃声は週末じゅう鳴り響いた。バグボに忠誠を誓う共和国防衛隊のエリート部隊は、大統領が逃げ込んだとみられる公邸を守るため、必死に抵抗している。

 バグボは公邸の周りの橋を守るために「人間の盾」を使っているとの噂も、ソーシャルメディアを通じて漏れ聞こえてくる。それでも一方では、南アフリカ大使館に亡命を求めたバグボ派の将軍の1人が、再び公邸に戻ってバグボのために戦っているという情報もある。

 フランス軍は空港を制圧し、フランス国民を避難のために召集している。かつてのルワンダや、最近のリビアでの状況を振り返ると、事態のさらなる悪化を懸念した動きであることは明らかだ。

 戦闘がこれ以上激化しなくても、包囲されたアビジャンにはじりじりと人道危機が迫っている。街の一部では水道が止まり、若い女性や子供がバケツを持って足早に水を汲みに行く姿が見受けられる。

 なぜこんな状況に陥ったのか? コートジボワールが内戦寸前の状況にあることは、何カ月も前から警告されてきた。最悪の事態になった今も、世界はどうしたらいいのか分からないかのように事態を傍観している。

■バグボへの国民の根強い支持

 経済制裁ではバグボを退陣に追い込めなかった。甘言や大赦の申し出も効果はなかった。オクスフォード大学のポール・コリアー教授は以前、バグボ派の兵士に投降を促すという興味深い解決策を提示したが、今となっては遅すぎる。

 今後、事態はこう動くだろう。ワタラ派の武装勢力は、バグボを追放するまで攻撃をやめない。その間、国際社会はコートジボワール市民を保護すべきだと怒鳴り、叫ぶ。しかしバグボが退陣するまで、今回の危機が終わらないことは誰もが分かっている。そして繰り返しになるが、誰も他の選択肢を考え出すことができない。

 バグボがどうにか退陣しても、それで事態が収束するとは思えない。昨年の大統領選が接戦だったことを思い出してほしい。バグボはまだ多くの国民から支持されているのだ。ワタラはコートジボワールの全国民を代表する大統領になると言っているが、事態はそう簡単には収まらないだろう。

 もはや、2人の男の単なる意地の張り合いという次元の問題ではない。内戦の長期化を国際社会が食い止めたいと願うなら、これからは可能性のある選択肢を練り始めなければならない。

――エリザベス・ディキンソン
[米国東部時間2011年4月4日(月)10時25分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 05/04/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

対米投資、為替に影響ないよう「うまくやっていく」=

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「やや制約的な政策を続け

ビジネス

サムスン電子、モバイル事業責任者を共同CEOに 二

ワールド

原油先物は3日続落、供給増の可能性を意識
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story