コラム

北朝鮮、外貨獲得の奥の手はエコ

2011年03月09日(水)16時09分

 北朝鮮は人民には伝えようとしないだろうが、この王国は破産寸前だ。幸いにも、巧妙な金正日(キム・ジョンイル)政権には考えがある。それは、カーボンオフセットを売って外貨を得ること。つまり、温室効果ガスの排出量が多い先進国から、その排出量に見合うだけの資金を環境対策事業に投資してもらう仕組みだ。

 国際社会からの孤立を深める北朝鮮は、いつくか水力発電の開発事業を進めようとしている。これは国連のクリーン開発メカニズム(CDM)の適用を狙ったもの。京都議定書に基づき、排出量を削減したい先進国と途上国とが手を結んで排出権取引ができる制度だ。先進国(やその企業)は排出枠を買い、取引する途上国は排出枠を売って現金を獲得する。

 06年以来、世界で2000以上の事業が承認された。ニューヨーク・タイムズによれば、その40%が中国国内のもので、ほとんどが水力発電関係だったという。08年には排出権取引は全世界で約70億ドルにも上った。

資金の出し手は限られる

 ロイターによると、北朝鮮は北東部における7〜8メガワットの水力発電所3カ所について、国連から事業登録の承認を得たいようだ。

 核開発計画によって経済制裁を受けている北朝鮮が、排出権取引に参加するのは容易ではない。お粗末な経済政策は別にしても、ロイターは北朝鮮の計画が承認されない多くの理由を指摘している。


「たとえ北朝鮮が取引に乗り出したとして、核開発計画で世界から非難される北朝鮮に資金を提供しようとする者がいるだろうか」と韓国・統一研究院の上級研究員は言う。

 また、外貨が北朝鮮の核開発に流れることを防ぐ必要もあるという。国際的法律事務所ノートンローズのパートナー、トム・ラコックは「北朝鮮の現金獲得手段が限られているため、条項違反があったとしても何の保障も得られないのではないか、と取引相手は懸念するだろう」と言う。

 そのほかにも問題なのは、北朝鮮がエネルギー消費量と産出量のデータや水力発電関連のエネルギー情報を公表しなければならない点だ。「毎年の査察を受け入れ、絶えずデータを計測し、気候変動枠組条約のウェブサイトにエネルギー需給を報告する――これらは北朝鮮にとっては未知の領域だ」と、北朝鮮に事業協力しているドイツのハンス・ザイデル財団のベルナルド・ジェリガー韓国事務所代表は言う。

 北朝鮮はたびたび洪水の被害に見舞われてきた。ダム建設はその対策の一助になるという主張もあるが、下水道を整備し、森林破壊を止めるほうが先決だ。

──スザンヌ・マーケルソン
[米国東部時間2011年03月07日(月)03時56分更新]

Reprinted with permission from FP Passport 8/3/2011.© 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独小売売上高指数、2月は前月比-1.9% 予想外の

ビジネス

ECBの金融緩和、条件整いつつある リスク後退=伊

ワールド

中国、豪産ワイン関税を29日に撤廃 関係修復

ビジネス

クレディ・スイス財務報告、虚偽記載巡る調査は継続中
MAGAZINE
特集:生存戦略としてのSDGs
特集:生存戦略としてのSDGs
2024年4月 2日号(3/26発売)

サステナビリティーの大海に飛び込んだ企業の勝算を、経営学者・入山章栄とSDGs専門家・蟹江憲史が読み解く

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大胆衣装にネット震撼

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    やり過ぎたイスラエル、守りきれなくなった米バイデ…

  • 6

    日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ば…

  • 7

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 8

    車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に…

  • 9

    ISがモクスクワテロの犯行声明を出してもプーチンが…

  • 10

    大谷翔平の今後の課題は「英語とカネ」

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴を上げ、「見た瞬間に鳥肌!」 奇妙な生物の正体は?

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 6

    クロスワードパズルの答えが「わからない」「難しす…

  • 7

    少女の髪の毛をかき分けると...もぞもぞ蠢く「シラミ…

  • 8

    ウクライナ軍のドローンに悩むロシア黒海艦隊...「地…

  • 9

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大…

  • 10

    左右に並ぶ「2つの顔」を持って生まれたネコが注目を…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「朝の歯磨きは食前・食後?」 歯科医師・医師が教える毎日の正しい歯磨き習慣で腸内環境も改善する

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    大阪万博、大丈夫?予言されていた「荒井注」化の危…

  • 6

    「完璧に保存された」ローマ文明以前の古代の墓...発…

  • 7

    野原に逃げ出す兵士たち、「鉄くず」と化す装甲車...…

  • 8

    『オッペンハイマー』日本配給を見送った老舗大手の…

  • 9

    健康長寿の一歩、年齢に負けず「長く続けるための」…

  • 10

    何をした? ロバート・ダウニー・Jr、助演男優賞で初…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story