コラム

「冒とく罪」批判の州知事暗殺に喝采

2011年01月05日(水)17時54分

犯人は、殺された州知事の警護官だった

アラーのため? 犯人は、殺された州知事の警護官だった Reuters

cleardot.gif

  パキスタンの2011年は、突然の暗殺劇で幕を開けた。1月4日、連立政権第1党のパキスタン人民党(PPP)の幹部を務めるパンジャブ州のサルマン・タシール知事が、首都イスラマバード市内の人通りの多い市場で自身の警護官によって射殺されたのだ。

 タシールは以前からイスラム教を冒とくした者に死刑など重刑を課す現行法の廃止を訴えていた。それが政界の宗教的勢力から怒りを買っていたと、レーマン・マリク内相は示唆した。

 07年のベナジル・ブット元首相の暗殺以来となる大物政治家の殺害事件は、政局不安で崖っぷちに立たされたパキスタン政権にさらなる一撃を与えた。アシフ・アリ・ザルダリ大統領は、連立政権第1党の幹部を務めるタシールとは近い関係にあった。

 事件直前の1月2日には、連立政権第2党であるムータヒダ民族運動(MQM)が連立離脱を表明。これで与党勢力は下院で過半数を割り込むことになり、政局の行方が懸念されていた。

■フェースブックに犯行記念ページ

 今回の暗殺事件は狂気の犯行と見なすのが普通だろう。たとえ犯行を称賛したがる人がいても、表立って称えたりはしないものだ。

 しかし現実には、逆のことが起きている。タシールを殺害したマリク・ムンタズ・フセイン・カドリを称賛する犯行記念ページがフェースブックに開設されると、わずか数時間で彼を英雄視するようなコメントが殺到した。「アラーよ、マリク・ムンタズを守りたまえ。彼は私たちにムスリムとしての誇りをもたらしてくれた」と、パキスタン北部ラホール在住の市民は書き込んだ。

 もっともパキスタンの治安部隊は、このページで大勢の「要注意人物」リストを集められたと喜んでいるかもしれないが。

──デービッド・ケナー
[米国東部時2011年1月4日(火)11時31分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 5/1/2011. © 2011 by The Washington Post. Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラの変革は武力以外の方法で、ローマ教皇が米

ビジネス

財政の持続可能性に配慮しつつ、戦略的に財政出動を行

ビジネス

中国サービス部門の民間PMI、11月は5カ月ぶり低

ビジネス

米半導体マーベル、同業セレスティアルAIを買収
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story