コラム

「黄色いベスト」が求めるフランス第2の「革命」

2018年12月18日(火)15時00分

先日、東京で『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』というワイズマン監督のドキュメンタリー映画を見て、日本の未来を想像しました。この映画が描くのはニューヨークで最も多民族・他宗教・多思想的な地区として有名なクイーンズのカラフルな風景でした。ユダヤ系と中南米系移民、LGBTとWASPの男女が共存する魔法です。

今でも南アジアの移民がいる東京東部(亀戸〜錦糸町)、中央アジア移民がいる東京の北(蕨市)、東南アジアの移民がいる横浜(泉区)は10年後に民族の多様性でクイーンズを上回るかもしれません。そうなって欲しいものです。

多民族社会ほど人間らしい社会はありません。そもそも一人一人の人間が違うのが当たり前ですが、多民族社会では中身も外見も最初から違って写るのです。それゆえに、本音を隠す、合わせる必要はないの です。共存のルールは必要ですが、それ以上に最初からお互いを認めないと絶対に上手く行きません。旧ユーゴスラビアではそのユートピアが失敗し、北欧も今、多民族国家への移行に苦戦しています。私の母国フランスも、移民を大勢受け入れてきたとはいえ、今だに人種差別 (移民への偏見)があります 。決して簡単な挑戦ではありませんが、異なった文化は融合できると私は思います。

では、東京は理想の多民族国家になれるのでしょうか。 「東京2020」の一つのキーワードは「ダイバーシティー(多様性)」です。日本にとっては、男女平等な社会の実現とともに21世紀最大の挑戦になるかもしれません 。

国が一つにまとまる目標を

日本でも、「黄色いベスト」たちのように希望を失って苦しんでいる国民は多いと思います。だとすれば、フランスやアメリカと同様に、新たな目標が必要になるでしょう。

「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」の名言があるイギリスの哲学者ジョン・アクトンは、人間は国家のルールに従うより共感する思想に従う傾向があると言いました。だから、トランプやロシアのウラジーミル・プーチン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相、中国の習近平国家主席のようにポピュリズム(大衆迎合)的なリーダーたちは人気が高いのです。

日本やフランス、カナダなどの教養レベルが国も、自国のアイデンティティー、つまり国を一つにまとめる明解な思想を打ち出さなければ、厳しくなる一方でしょう。

それは必ずしもナショナリズムではなく、一種のロマンだと思います。同じ国、同じ空間に住んでいる人たちが尊敬する価値観や美徳のことです。日本では礼儀、連帯、謙虚さ、忠誠、勤勉のような美徳が金です。その日本らしい価値観に共感した新しいアジア移民層と日本人が一緒に作り出す空間こそ21世紀にふさわしいニッポンです。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ワールド

〔アングル〕長期金利2%接近、日銀は機動対応に距離

ワールド

ウクライナ、モスクワ州など大規模ドローン攻撃 ロシ

ワールド

トランプ氏、対ロ大規模投資と欧州へのエネ供給回復計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story