コラム

終電なんか怖くない! 「眠らない東京」大作戦

2013年06月03日(月)10時02分

今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ

〔5月28日号掲載〕

 東京で最悪なこと。それは、酔っぱらいながら猛ダッシュで駅に着いたら、アナウンスが流れて照明が消え、大きなシャッターがガラガラと下りてくること。悲しくて、腹立たしくて、おカネが掛かる夜。私の乗るはずだった終電が新宿駅を出発した瞬間、シンデレラさながら黄金の馬車はカボチャに戻る。

 すると昼間の東京ではいとも簡単にできることができなくなり、誰もが途方に暮れる──家に帰れない!

 駅員に懇願しても、ネットで検索しても無駄だ。私も試したことはある。終電は文字どおり「最終」の電車なのだ。

 だから、東京都の猪瀬直樹知事が都営交通の終夜運行を考えているというニュースを聞いたとき、私は跳び上がって喜んだ。もう大慌てで家に帰らなくても、タクシー代という名の罰金を払わなくてもいい。終電そのものがなくなるのだ。腕時計も着けなくていい。

 世界の大都市の多くは、夜間でも簡単に移動できる。ニューヨークは「眠らない街」を自負する。しかし昼間は超便利な東京も、深夜には上海かベルリンを舞台にした第二次大戦映画のセットみたいになる。夜間外出禁止の門限に遅れて敵陣に取り残され、自分のベッドが果てしなく遠い。

 都知事は外遊中にインパクトのある発言をしたかっただけかもしれないが、東京は人々が24時間、生活を営むダイナミックな都市だという意見はそのとおり。それなのに電車が毎日4、5時間止まるのは、都市全体が保育園のお昼寝タイムになるかのよう。眠りたくなくても布団に入らなければならない。

 終電を逃してタクシーやサウナ、カプセルホテル(最近はインターネットカフェもある)を利用すると、楽しい時間を過ごした罪で罰金を課せられた気分になる。日本語には「丑の刻」「寅の刻」という魅力的な言葉があるのだから、そうした時間に帰宅してもいいではないか。

 公共交通の24時間運行は東京を変えるだろうか。まず、時間に対する強迫観念が変わるかもしれない。腕時計や携帯電話の時刻表示、巨大な壁時計の数は、東京が間違いなく世界一多い。終電に脅されなければ、東京の人は時間を「見る」よりもっと「楽しむ」ようになるだろう。

 日本のあらゆる変化と同じように、抵抗もあるだろう。鉄道の安全点検や保守が必要なこと、深夜の犯罪や騒音、終わりなき残業、電力使用量の増加を心配するのはよく分かる。ただし、これらは昼間の問題でもあり、昼夜を問わず解決策が必要なはずだ。

■空間も時間も混雑緩和を

 終夜運行の問題を考えるたびに、安全面より風紀の問題ではないかと思えてくる。東京の夜の文化が広まることを恐れる雰囲気があるようだ。風営法に基づいて深夜にダンスを踊るなというのも、奇妙な夜間規制の1つだ。

 もちろん、残業や退屈なパーティーを抜け出す口実に、終電を使えなくなるのは困るだろう。それでも私はジャズクラブに居座り、夜更けに始まる本物のセッションを聴きたい。

 2次会や3次会の時間制限がなくなったら、午前4時から10次会が始まるのだろうか。夜通し遊べるようになれば、東京はもっと創造的になり、もう少し正直になるかもしれない。

 終電がなくなっても、たいていのことと同じように、東京の人はすぐに慣れるだろう。東京は空間だけでなく時間も混雑している。首都圏で4000万もの人が、1日のうち20%近い時間に移動ができないというのもおかしな話だ。

 終夜運行が実現すれば、東京はもっと活気ある街になるかもしれない。ニューヨークに続く第2の「眠らない街」だ。ただし、電車の中は別。東京の人は電車に乗ると、昼でも夜でもすぐに眠れる。だって夜更かしが好きだから。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ミュンヘン安保会議出席へ 米代表団50

ビジネス

アポロ、xAI関連の事業体に約34億ドル融資へ=報

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用見通し改善=

ワールド

トランプ政権、解雇された連邦職員の異議申し立て制限
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業績が良くても人気が伸びないエンタメ株の事情とは
  • 4
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story