コラム

日中友好イベントになぜ閑古鳥が鳴いたのか

2012年07月30日(月)09時00分

今週のコラムニスト:李小牧

〔7月25日号掲載〕

 1972年の日中国交正常化から40周年になる今年は、日本や中国でさまざまな友好イベントが企画されている。今月初めには、中国の最先端ファッションを日本人に紹介するショーが東京の六本木ヒルズで開かれた。東京駐在の中国大使だけでなく、内閣に当たる国務院の広報部門トップが来日するほど中国政府は力を入れていたが、会場に日本人や日本メディアの姿はなく閑古鳥が鳴いていた。

 このイベントに参加した中国のトップデザイナーの1人である郭培(クオ・ペイ)と私は、18年来の友人だ。イベントの後、新宿・歌舞伎町のわが湖南菜館を訪れた彼女は、「だまされた!」と心底悔しがっていた。ろくに人が来ない上、会場の床がきちんと整備されていなかったため、ゴージャスな衣装を着たモデルが3回も大きな尻もちをついたのだから無理もない。

 記念すべき大イベントが、なぜ散々な結果に終わったのか。会場設営の不備や日本のマスコミへの売り込み不足はもちろん担当者の責任だが、最大の「犯人」は中国政府だ。

 ちょうど同じ時期、アメリカ在住の王丹(ワン・タン)が初めて東京を訪れていた。89年の天安門事件で学生リーダーの1人として民主化運動を率いた人物だ。自身が出演するドキュメンタリー映画『亡命』の宣伝と、中国の人権状況を日本人に知ってもらうことが来日の目的だが、記者会見には日本と世界のメディアが殺到した。

 天安門事件後、ほぼ2桁の経済成長を続けてきた中国に比べて、国外で流浪の生活を送る民主活動家たちは最近元気がない。実際、祖国に帰れない暮らしが続き、精神を病んでいる人たちもいる。

■民主活動家・王丹の「底力」

 ただ、私が会った王丹は決して打ちひしがれた元学生リーダー、という印象ではなかった。わずか20歳で天安門広場の大群衆を前にマイクを握った人物だけあって、皮肉やユーモアを織り交ぜながら、実に理路整然と共産党政権の現状と中国の民主化の未来について語ってくれた。

 中国共産党も彼にかかれば「理想なき現実主義政党。人民の力が強くなれば、撤退にも妥協にも追い込める」存在でしかない。現在、王丹は台湾の大学で教壇に立っているが、台湾の馬英九(マー・インチウ)総統についても「毎年6月4日に民主化を促す声明を発表する以外、彼の努力を聞いたことがない。私の眼に入ってこないのは、私の視力が足りないだけかもしれないが」と容赦ない。

 何より感心したのは、彼が大半の中国人と違って見えや虚勢を張らないことだ。アメリカを拠点に生活する一方で台湾の大学で教えるのは、「何よりカネを稼がなければならないから」で、博士号を取ったハーバード大学で台湾史を専攻したのは「勉強する学生が少ない」、つまりは卒業しやすいから、と開けっ広げ。メンツにこだわらないということは、裏を返せば自分に自信があるということだ。

 王丹の会見と六本木ヒルズのファッションショーで明暗が分かれたのは、この23年間カネにものをいわせて世界で大きな顔をする一方で、国内の人権を無視してきた中国政府がいかに他国から信頼されていないかを物語っている。日本人や日本メディアが中国のファッションに興味がないのではない。建前ばかりで偉そうな顔をしている中国政府が嫌いなのだ。

 私はこれまで、マイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)のような新しいメディアが中国を変えると思ってきたが、王丹と会って考えを変えた。彼が言うとおり、中国を変えるのはやはり民衆の力だ。希望もある。現に四川省では今月、民衆の抗議運動を受けて、当局が公害の恐れのある金属工場の建設を撤回した。運動の中心になったのは「九〇後」と呼ばれる若い世代だ。

 せっかくの友好イベントになぜ日本人が来ないのか。その意味を中国政府は真剣に考えたほうがいいと、歌舞伎町案内人がノーギャラで忠告しておく(笑)。

プロフィール

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