コラム

高品質の「公共」を誇る東京は必ず復活する

2012年01月10日(火)09時00分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔12月28日号掲載〕

 言うまでもないことだが、日本にとって2011年は悲惨な年だった。けれど私は、2012年がついに日本にとって「目覚めの年」になると信じている。もちろん、東京にとってもだ。

 ここ20年以上というもの、日本からは1つとしていい話が聞こえてこなかった。日本は誰にも止められずゆっくりと、永久的な衰退の道を進んでいるように見える。福島第一原子力発電所の事故は、やる気をさらにそぐことになった。ぱっと見で日本に下される診断は明確だ。この国は長期的な破滅へと向かいつつある──。

 その一方で、実は「最悪の中の最良」にあるようにも見える。世界中のほとんどすべての国が、今の日本よりも一層ひどい状況にあるからだ。

 アメリカは数々の大きな国内問題を抱え込み、外国に口出しするような余裕はない。ヨーロッパでも社会問題が噴出し、一向に改善しない雇用情勢に若者世代が苦しんでいる。今のパリの姿は、日本人旅行者がかつて抱いたばら色のイメージとは程遠い。パリ郊外には麻薬ギャングが支配する地域もあり、警察官ばかりか消防士や医師ですら立ち入れない。

 こうしたフランスの一部地域は、完全に見捨てられている。そこで生活する子供たちが、今後幸せな人生を送るチャンスはゼロに等しい。彼らには「公共」の福祉など存在しない。

 最も注目される国、中国でも「公共」の質は高くない。確かにアメリカに並ぶ影響力をもつ経済大国だが、大きな問題が1つある。北京では息を吸えないのだ。大気汚染がひどく、200メートル先を見通せない日もある。それに比べて東京は、冬の晴れた朝には都心からも富士山が見えるほど。きれいな空気は東京の誰もが享受できる「公共の利益」だ。

 実際、東日本大震災で誰もが何らかの影響を受けただろうが、東京の「公共」の質は驚くほど高く保たれている。道路はピカピカだし、公共交通のサービスは素晴らしい。公共の利益を重んじる姿勢がここにも見て取れる。

■空気も食事もインフラも最高

 もちろん問題はある。それでも、パリの地下鉄や電車で日々遭遇する問題に比べればかわいいものだ。パリの街頭には、東京の100倍は落書きがある。暴力事件の発生率は東京よりはるかに高い。東京の一番汚い公衆トイレよりきれいな公衆トイレを1つだって見たことがない。

 東京には、経済の良し悪しによる影響は誰にも平等に降りかかるという感覚がある。「ウォール街占拠」デモが日本で起こらないのは世論が無関心だからではなく、ウォール街に匹敵する存在がないからだ。アメリカのように、金融監督機関の幹部がヘッジファンドからやって来るようなこともない。

 日本の金融政策関係者は、人生の究極の目標が金銭的な利益だとは考えていない。「公共の利益」とは何かについて高尚な考えを持っている。日本銀行に勤める私の友人は大した給料ももらっていないのに、日本の金融安定化のために毎日朝から夜中まで懸命に働いている。

 20年間の経済低迷にもかかわらず、東京が公共の良識を保ってきたのは称賛に値する。だからこそ私には、東京が近い将来力強く復活することが分かる。

 格安航空会社の参入で空の旅がもっと手軽になれば、東京の生活水準の高さは外国人に知れ渡る。東京人も自覚するようになるだろう。ここには最高の空気と食事、インフラがあり、文化や芸術の質も突出していることを。ヨーロッパとアジアの都市をよく知る私の友人たちにどこか1つ選べと言えば、皆ためらうことなく東京での生活を選ぶだろう。

 彼らは確信しているからだ。個人の利益を超越した「公共の利益」の存在を。それこそが東京の最高の財産だ。来年が良い年になりますように!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story