コラム

オクトーバーサプライズ?

2012年11月01日(木)19時26分

 四年に一度のアメリカ大統領選挙には、「オクトーバーサプライズ」という言葉があります。投票日は11月のはじめ(今回は6日)なので、その直前の10月に選挙戦に大きな影響を与えるサプライズが起きることを指します。今回は、ハリケーン「サンディ」の襲来がそれに当たるのではないかと言われ始めました。

 このコラムは、毎回、本誌日本版の記事を論評していますが、現在私はアメリカで大統領選挙の取材中。日本版を読むことができないので、ニューヨークからの特別編をお伝えします。

 ハリケーンは台風と同じもの。発生場所が異なると名前も異なるだけのことです。アメリカでは、ハリケーンのひとつひとつにアルファベット順に人名をつけます。かつては女性名だけだったのですが、「女性差別だ」ということになり、現在は男女の名前を交互に命名しています。

 ところが、5年前に大きな被害を出したカトリーナも、去年ニューヨークに被害を出したアイリーンも、今回のサンディも、なぜかみんな女性名です。

 おっと、これには深入りしないでおいて、本論に入ります。

ハリケーンがアメリカ東部海岸の上陸したのは、大潮と満潮とが重なった時間。海面が高く盛り上がり、低地が広い範囲で浸水しました。ニューヨーク州政府関係者は、「想定外の海面上昇」とコメントしました。どこかで聞いた言葉です。

日本の台風被害を数多く取材してきた私から見ると、ハリケーンに慣れていない東部は社会インフラが極めて貧弱・脆弱であることに驚きます。

この大きな被害に対して、奮闘したのがニュージャージー州のクリス・クリスティ知事とオバマ大統領でした。

ハリケーンはニュージャージー州に上陸したこともあり、この州の被害は甚大。知事は対策の陣頭指揮に立ったのですが、テレビの生中継で、オバマ大統領の支援を絶賛し、高く評価したのです。

これに驚いたのは共和党関係者。クリスティ知事は共和党で、日頃からオバマ大統領を激しく批判していたからです。

オバマ大統領は10月31日、被災地に入り、クリスティ知事と一緒に視察した後、共同記者会見。息の合ったところを見せました。

大統領選挙に向けた活動を一時休止してハリケーン対策に専念したことが、オバマ大統領への評価を高めたのでしょう。ハリケーンへのオバマ大統領への対応についてのABCテレビの世論調査によると、オバマ大統領の対応を「評価する」と答えた人は78%に上りました。

このところロムニー候補の激しい追い上げに苦戦を強いられてきたオバマ大統領にとって、思わぬ"追い風"になったのです。これこそオクトーバーサプライズというわけです。

危機に直面したとき、リーダーの真の実力が判明する。これは、去年3月、日本国民が実感したことでしょう。オバマ大統領は、自然災害のテストに合格したのです。これで選挙戦の苦戦を一気に挽回するかもしれません。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story