コラム

「北アフリカ・中東革命」の行方は?

2011年03月07日(月)13時17分

 チュニジアから始まった民衆の行動は、エジプトの政権を打倒し、ついにはリビアにまで波及しました。まさに「北アフリカ・中東革命」と呼んでいい事態です。

 欧米の世論は、これを歓迎していますが(私も歓迎していますが)、いやいや、「革命」の後はロクなことがないかもと、無邪気な革命礼賛に釘を指しているのは、本誌日本版3月9日号の「中東革命を見誤る無邪気なアメリカ」です。

「アメリカ人は革命が大好きだ」と、ハーバード大学教授で本誌コラムニストの二―アル・ファーガソン氏は書き出します。なんといっても、アメリカはイギリスとの独立戦争を経て成立した国家だから、というわけです。日本に住む私たちは、歴史で「独立戦争」として習いますが、アメリカ人にとっては、「独立革命」なのです。

「それだけにどんな環境や結果が違おうと、外国の革命家を本能的に応援するきらいがある」

 アメリカ建国の父たちは、フランス革命を絶賛しました。フランス革命が、やがて恐怖政治と化し、多数の人々を断頭台に送ったにもかかわらず。

 そしてジャーナリストのジョン・リードは、1917年のロシア革命を「熱狂的な調子で伝えた」。

 やはりジャーナリストのエドガー・スノーは、中国共産党の毛沢東を「農民のように飾り気がなく自然で、豊かなユーモアと素朴な笑いを愛する人物」と紹介しました。その毛沢東は、やがて中国に大災厄をもたらすのですが。

 フランス革命もロシア革命も、中華人民共和国建国も、その当時には「誰もが高揚感と確信で満たされていたかもしれない。だが4年後には暗黒が待っていた」

 そう、この歴史観が必要なのでしょう。進行する革命の最中に取材するジャーナリストたちは、往々にして、熱狂と興奮の中で、革命を賛美しがちです。ちょっと待てよ、とこの論考は指摘します。

「現代のアラブ諸国では、1770年代のアメリカよりも暴力が拡大し長期化する可能性が高い。その中心にいるのは、貧しくて教育のない約4000万人の若者たちだ」

「アメリカに戦略がないなか、アラブ世界で最悪のシナリオが現実になる可能性は日々高まっている。それはフランスやロシア、中国の革命で起きたのと同じ流血のシナリオだ」

 この論考では触れていませんが、かつて起きたイラン革命も、当初は国王の抑圧に対する民衆の怒りによる民主化闘争でした。立ち上がったのは、イスラム教徒や共産主義者、民族主義者、インテリなど多様な人々でした。しかし、いったん革命が成功すると、組織化された過激なイスラム集団が、かつての仲間たちを次々に処刑して、実権を把握しました。

 同じ号で、本誌中東総局長は、「アラブ動乱、欧州への連鎖」というリポートで、以下のように指摘します。

「たとえ地中海沿岸の都市部に平和が戻り、独裁体制に代わって自由で民主的な政府が樹立されたとして、北アフリカ内陸の広大な砂漠地帯はどうなるのか。国際テロ組織アルカイダは、北アフリカの砂漠を勢力圏にしようと暗躍してきた」

「革命」を取材するジャーナリストには、現実を正確に報道する取材力が求められます。と同時に、「この出来事が歴史になったとき、後世の歴史家は、どのような評価を下すのだろうか」という冷徹な分析もまた、必要とされているのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ

ワールド

コンゴ、エボラ出血熱死者31人に 3年ぶり流行で

ワールド

小泉農相、20日に総裁選出馬会見 午前10時半から

ワールド

南ア中銀、政策金利据え置き 過去の利下げの影響見極
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story