コラム

百家争鳴の「第三極」で参院選はおもしろくなるか

2010年04月01日(木)18時24分

 鳩山内閣の支持率が30%代に落ちる一方、自民党の支持率も低迷する中で、みんなの党が「野党第二党」に浮上している。各メディアの世論調査では支持率で公明党を抜き、「参院選の比例代表の投票先」として10%を超えるようになった。渡辺喜美代表は選挙区でも候補者擁立を進め、「合計20人以上は候補を立てる」との方針を示している。

 他方、自民党内でも舛添要一氏や与謝野馨氏が新党結成に言及し、鳩山邦夫氏が離党するなど、谷垣総裁の求心力低下が目立つ。こうした勢力は「第三極」として結集し、民主・自民を脅かす勢力になるだろうか。

 まず問題外なのは、総務相だったとき「かんぽの宿」の一括売却に異を唱えるなど、郵政民営化に反対の立場をとる鳩山邦夫氏で、みんなの党からも自民党内の批判派からも相手にされていない。与謝野氏も、財政再建のために増税するかどうかで渡辺氏と対立したので、合流することはむずかしいだろう。

 この他にも舛添氏が会長をつとめる「経済戦略研究会」には、前の自民党総裁選に立候補した河野太郎氏がいる。彼は渡辺氏から「自民党は清算会社にして新会社でやろう」と呼びかけられているが、離党する気は今のところないようだ。夏の参院選で自民党が惨敗し、谷垣総裁が退陣したら「次」をねらおうという戦術らしい。同じグループには中川秀直氏もいるが、彼は比例代表なので、みんなの党には移籍できない(新党を結成すれば移れる)。

 ・・・というわけで、政局的にはみんな動きにくいが、もっと大きな問題は彼らの掲げる経済政策がバラバラで、既存政党に代わる方向性が見えないことだ。「財政タカ派」の与謝野氏と「上げ潮派」の中川氏が合流することは考えにくい。他方、みんなの党のマニフェストは増税にも言及せず、日銀がお金をばらまけば景気が回復し、「埋蔵金」を取り崩せば財政が再建できるといった夢物語が描かれている。

 ただ多くの政治家の共通点は、民主党の「大きな政府」路線、とりわけバラマキ福祉政策が財政的に破綻すると予想し、「小さな政府」をめざす方向を打ち出していることだ。しかしこの点も、小泉改革の継承を明言する中川氏から「小泉改革は財務省支配だった」と批判する渡辺氏まで温度差がある。長期的な成長戦略についても、環境とか福祉とかいったありきたりの産業政策が並んでいるだけだ。

 実は「第一党」は民主党ではない。どの世論調査でも、ほぼ半数を占める圧倒的な多数派は「支持政党なし」である。特に昨年、民主党政権ができたときは民主党支持に回った無党派層が離れ、それが支持政党なしとみんなの党に分散している。要するに、第三極は「消去法」で選ばれているだけなのだ。「望ましいリーダー」のトップに挙げられる舛添氏も、「今の自民党は駄目だ」というだけで、政治理念も経済政策もはっきりしない。

 しかし各種の世論調査では、参院選で民主党が半数を大幅に割り込むという予測が多いので、第三極が大きな勢力になれば、民主党が社民党・国民新党を切って第三極と連立を組む可能性もある。そうなれば、今の国民新党が民主党政権を振り回しているように、「小さな政府」派が一定の発言力をもつ可能性もある。まともな政策もリーダーも不在の参院選は不毛の選択だが、最大多数の無党派層にとっては民主党になるべく大敗してもらうことが望ましいのかもしれない。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米がイラン核施設攻撃、トランプ氏「和平に応じなけれ

ワールド

米のイラン攻撃、各国首脳の反応 イスラエル首相「お

ビジネス

〔アングル〕イラン核施設攻撃、 原油高騰の可能性 

ワールド

米のイラン攻撃「危険なエスカレーション」、国連事務
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 9
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 10
    ブタと盲目のチワワに芽生えた「やさしい絆」にSNSが…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story