コラム

過去最大の素数「2の1億3627万9841乗−1」が発見される...大きな素数の「意外と身近な恩恵」とは?

2024年10月25日(金)20時35分

もう少し、分かりやすくするために、数字1つ1つを1メートルのブロックに書いて、並べてみましょう。その長さは41024.32キロになります。地球1周の長さは赤道で40075キロ、北極と南極をつなぐと40009キロですから、ほぼ地球1周分ということです。

ところで、「最大の素数の発見」と言っても、興味があるのは数学者だけで、一般の人には関係ないと思うかもしれません。けれど、大きな素数は今や私たちの生活になくてはならないものです。

インターネット時代は、ネットバンキングやネット通販で個人情報やクレジット情報を送る際に暗号化が不可欠です。そのため、数の中で不規則に登場し、規則性が未解明である素数は、その予測の難しさから「暗号」に使われ、安全性の保証に役立っています。

たとえば代表的な「RSA暗号」は、素数の特性が活用されています。ともに素数であるpとqを掛け合わせた数Nは、pとqを知っていれば桁数が大きくなってもコンピューターで簡単に計算できます。

一方、Nだけが与えられている場合、素因数分解してpとqを求める計算は、Nが大きくなればなるほど現実的な時間では困難になります。現在は、2の1000乗程度の素数を2つ掛け合わせたものであれば、安全性が保証されると考えられています。ただし、今後、高速な量子コンピューターの開発が進めば、「RSA暗号」自体が機能しなくなる時代が来る可能性があるとも予測されています。

最大素数を新発見したら賞金も

GIMPSの解析ソフトを使った「最大素数の発見」は誰でも参加できるので、早くもこの新記録を破ろうとする猛者たちが現れています。デュラント氏は、最大素数の新発見で、GIMPSから賞金3000ドルを授与されました。さらに、最初の1億桁の素数と10億桁の素数の発見者には、それぞれ15万ドルと25万ドルの賞金が贈られる見込みだそうです。

みなさんもチャレンジしたくなったのではないでしょうか。もっとも、ワシントンポスト紙によると、デュラント氏は新しい素数の探索に約200万ドルを費やしたそうです。また、賞金3000ドルについても、母校のカリフォルニア工科大に入学する前に通っていた公立校、アラバマ数学科学学校の数学科に寄付すると言います。素数発見で一儲けするのは、なかなか難しそうですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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