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マウスとの比較で分かった、イモリの腱が「完全に再生」する理由 ヒトの医療に応用されたら何が可能に?
17日に2度目の大リーグMVPを受賞した大谷翔平選手は、2018年6月に右肘内側側副靱帯の損傷でPRP療法と幹細胞注射を受けました。1カ月後に打者として、3カ月後に投手として復帰したものの、同年9月に右肘靭帯に新たな損傷が見つかり、側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けました。
大谷選手は本年8月にも右肘の内側側副靱帯を損傷し、9月に再度トミー・ジョン手術を受けています。18年、本年ともに執刀を担当したニール・エルトラッシュ医師は、球団発表の声明文の中で「24年の開幕日には何の制限もなく打てるようになり、25年には投打両方をできるようになるでしょう」と語っています。トミー・ジョン手術を受けた投手が故障前と同レベルの投球ができるようになるまでには、平均で18カ月かかるというデータもあります。大谷選手の早期回復が待ち望まれます。
「見た目問題」解決の一助にも?
イモリの再生能力の秘密をゲノムから解明しようとする研究では、日本発で重要な成果が生まれています。
筑波大の千葉親文教授らの研究チームは18年、アカハライモリの遺伝子解析から、成体イモリの肢が再生される時に発現が増加する有尾両生類(イモリ・サンショウウオ類)に特有な遺伝子を見つけました。「Newtic1」と名付けられたこの遺伝子は、一部の赤血球中にNewtic1タンパク質を発現していました。
成人イモリの肢を切断して再生過程を観察すると、切断面の赤血球はNewtic1を新たに発現し、集合体を作りながら再生芽の先端部分に集積していました。赤血球は再生に必要な様々な分泌因子も発現し、傷口に運び込んでいました。その結果、傷口周囲の細胞の時計の針を修復するために必要最低限なレベルまで巻き戻すスイッチとしても働いている可能性が示唆されました。
また、イモリの全ての遺伝子配列の解読を試みる広島大両生類研究センターの林利憲教授らは、ヒトの7倍ものゲノムサイズがあるイベリアトゲイモリで多く見られる「レトロトランスポゾン」と呼ばれる一見無意味な繰り返し領域が、再生に重要な役割を担っているのではないかと仮説を立てています。
今回の名古屋大らの研究チームは、イモリの組織再生現象をマウスと直接比較する研究モデルは世界初で、腱だけでなく他の組織を対象とする組織再生研究に新しい展開をもたらすものだと語っています。
たとえば、哺乳類は皮膚の傷が治る時にかさぶた(線維化)ができます。傷を負う前の細胞とは異なる細胞群が傷をふさぐので、瘢痕(傷跡)が残るのです。対して、イモリの場合は、もともと皮膚を構成していた細胞によって傷口が修復されるので、跡が残りません。ヤケドの治療などにイモリの皮膚再生技術が応用できれば、人とは違う特徴的な外見を持つために困難に直面する「見た目問題」の解決の一助になるかもしれません。
イモリは進化の過程でなぜ驚異的な再生能力を持ったのかは謎が多く、完全解明には時間がかかるかもしれません。けれど、イモリの再生の仕組みを応用した新しい再生医療が実装される日は、遠くない将来に迎えられるかもしれませんね。
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