コラム

カーレーサーはレース中、きまって「ある場所」でまばたきしていることが明らかに

2023年05月30日(火)12時50分

これまでのドライバーのパフォーマンスに関する研究では、「どこを見ているか」については多くの分析がありますが、まばたきについてはとくに議論されてきませんでした。けれど、カーレースは0.1秒のラップタイムを競います。コース内で視線を適切にコントロールできていても、0.2~0.3秒間の「視界の遮断」となるまばたきが適切なタイミングで発生しなければ、勝敗だけでなく運転の安全面に大きな影響を与える恐れがあります。

そこで、研究チームは走行中のドライバーのヘルメットにアイカメラを取り付け、車両の挙動とドライバーのまばたきを同時に計測しました。その結果、①3人のドライバーのまばたきの頻度は異なるが、全員コース上の同じ位置付近で集中的にまばたきをしたこと、②周回を重ねてもその位置はほとんど変わらなかったことが分かりました。

さらに、まばたきは車両の加速度に強く関連していました。加速度が小さい時に発生が偏る一方、車両が大きく減速したり横方向に加速したりするときは強く抑制されていました。これは、コーナーに侵入する場面でまばたきが止まり、コーナーを抜けて直線になったときに多くのまばたきが発生したことを示しています。

つまり、コーナーリングの時に急激に脳の認知状態が変化し、それがまばたきの抑制と発生という違いに反映された可能性があります。先の中野教授の研究成果を重ね合わせれば、コーナーを抜けるとドライバーは「運転の句読点(一区切り)」を感じるのかもしれません。

また、各ドライバーともラップタイムが速い時ほど、まばたきのパターンは明確であったため、運転への集中度がまばたきのパターンにも反映されることも示唆されました。

今回の研究成果は、高速で走る自動車の中のデータを分析できたことから、測定条件がそれよりは厳しくない一般の人々の認知や心理状態の変化も、まばたきのパターンによって読み解ける可能性が示されました。まばたきはカメラで検出することはさほど難しくないため、従来の認知状態の分析に用いられてきた眼球運動や瞳孔径と比べて、脳機能の研究が促進することが期待されます。

スポーツやトップアスリートに対する科学的なアプローチは、競技ルールやアスリートのパフォーマンスの上昇のためだけに行われるわけではありません。一般の人たちの機能の解明に対しても役に立つのです。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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