ニュース速報
ワールド

アングル:「高額報酬に引かれ志願」、若きウクライナ兵を襲う後悔と悪夢

2025年12月04日(木)15時04分

写真は4月、キーウ州で演習に参加するパブロ・ブロシュコフさんら。REUTERS/Gleb Garanich

(コードを変更します。)

Anastasiia Malenko

[キーウ  1日 ロイター] - パブロ・ブロシュコフさん(20)は今年3月、祖国を守り、妻と生まれたばかりの娘のために家を買う資金を得るという希望を胸に、ウクライナ軍に入隊した。

3カ月後、夢は打ち砕かれた。ブロシュコフさんは重傷を負い、戦場に横たわっていた。

「自分が木っ端みじんになる瞬間だと覚悟した」とロイターの取材に明かした。「死は怖くなかった。妻と子どもに二度と会えないことが恐ろしかった」

約100万人の兵士を抱えるウクライナ軍は今年、年齢層が上がり疲弊している軍に新たな風を吹き込むため、全国の若者を対象に兵役募集を行った。高額報酬や特典に引かれ、18-24歳の若者およそ数百人が最前線で戦うことを志願した。

ウクライナ軍は東部での激しい消耗戦でロシア軍に徐々に領土を奪われつつあり、指揮官らはその主な要因が兵士不足にあると考えている。こうした緊迫感は、和平案を巡って米国と交渉を続けるウクライナ政府にも圧力をかけている。

ロイターは春の軍事訓練キャンプで戦闘の特訓を受けて前線に配備された数十人の新兵のうち、ブロシュコフさんら11人の行方をたどった。

この11人の中で、今も戦場に残る人はいない。兵士や親族への取材、政府の記録によると、4人は負傷、3人は行方不明となった。2人が「AWOL(許可なく軍から離脱)」し、1人は病気を発症、1人は自殺したという。

新兵の運命は、ウクライナがロシアとの戦闘の中で直面している苦境の一端を映し出しているかもしれない。

ロイターは春の軍事訓練キャンプに参加した他の新兵と連絡を取ることができず、取材した11人の事例がウクライナ軍全体の現状を反映しているかどうかは判断できない。

ウクライナ軍と、新兵11人が所属していた第28冬季行軍・独立機械化旅団は、この記事に対するコメントの要請に応じなかった。

<死と隣り合わせ>

ブロシュコフさんは6月、死に直面した。

ドネツク州東部の戦場で両脚を撃たれたブロシュコフさんは、凍りついたように横たわっていた。数メートル上空で爆弾を投下しようと準備するロシアの無人機(ドローン)を目にし、最悪の事態を考えた。

このドローンは攻撃に及ぶ前に仲間の手で撃ち落された。ブロシュコフさんは生き延びた。

だが、ブロシュコフさんの親友エフェン・ユシチェンコさん(25)は、7月中旬に戦地に戻って以降、行方不明となっている。きょうだいのアリーナさんはユシチェンコさんの身に何が起きたのか、情報を求め続けている。

「彼は死んだと多くの人が口をそろえる。死んだか、あるいは捕虜としてとらわれていると」とアリーナさんは語った。彼女はキーウの独立広場で10月下旬に開かれた、行方不明の軍人への関心を呼びかける集会に参加していた。「私は最後の瞬間まであきらめない」

ウクライナ内務省は、ユシチェンコさんとボリス・ニクさん(20)、イリア・コジクさん(22)の3人を一団の行方不明者として挙げている。

「(ユシチェンコさんと)一緒に行動していた方が良かったかもしれないと思うことがある」。ブロシュコフさんは家族とともに療養している南部オデーサのアパートで、親友についてこう語った。

「共に戦い、共に倒れる」とブロシュコフさんはつぶやいた。

ドネツク州ボルノバハで兄弟が殺され、ロシアの占領から逃れて入隊したユーリイ・ボブリシェフさん(18)も、もう戦地にはいない。

ボブリシェフさんは、現在暮らしている国を明かさずにロイターの電話取材に応じた。ウクライナ軍への復帰を考えているが、指揮官との不和があったため以前とは異なる旅団に入りたいと明かした。

「契約書にサインしたことを後悔している。ボーナスを稼げるかもしれないと思ったが、それが裏目に出た」

<火薬と遺体の臭い>

若者向けの兵役募集は2月に開始された。ウクライナ軍の兵力はロシア軍に大きく劣り、焦燥感が表れていた。

志願者には最高2900ドル相当の月給と2万4000ドルのボーナス、無利子の住宅ローンが保証された。

防衛能力に詳しい上級外交官によると、ウクライナ軍の平均年齢は47歳だという。

2022年のロシアの全面侵攻以来、当初は27歳以上の男性全員に入隊が義務付けられていた。戦後ウクライナの将来にとって重要な若い世代が犠牲にならないようにという当局の考えに基づいていた。この年齢制限は昨年、25歳に引き下げられた。

ウクライナのシンクタンク「ラズムコフ・センター」で外交政策・国際安全保障を担当するオレクシイ・メルニク氏は「ウクライナ軍は今、人員に関する致命的な問題を抱えている」と指摘した。

ブロシュコフさんは入隊後、訓練キャンプでユシチェンコさんのほか、軍のコールサインだけを明かした元レストラン従業員「クズマ」さん(23)ともすぐに打ち解けた。

春の訓練期間はあっという間に過ぎた。接近戦訓練、ドローンシミュレーション、身体訓練、心理的準備、睡眠、その繰り返しだ。実戦経験が豊富な教官から、個人的な欲望を捨て、1つの戦闘部隊として団結するという信念を叩き込まれた。

若い兵士らは前線への配備が近づくにつれ、不満を口にしなくなった。疑念を持つことなく命令に従うことを学んだ。「命令を受けたら実行するのみだ」とブロシュコフさんは語った。

最初の出撃命令が下されたのは6月中旬、荒天の一日だった。

クズマさんは最初に配属された新兵の一人だった。すぐにロシア軍の無人機による攻撃を受け、死の危険にさらされたという。

この攻撃でクズマさんは腹部に重傷を負った。助けを求めて叫ぼうにも肺に煙が充満し、かすれたささやき声しか出なかった。2人の仲間に塹壕(ざんごう)へと引きずり込まれた。今も、短期間従軍した際の悪夢に悩まされていると身震いしながら語った。

「あの臭い、火薬と遺体の臭いだ」

<戦友、痛み、悪夢の同志>

ブロシュコフさんとクズマさんが次に顔を合わせたのは、オデーサの病院だった。ブロシュコフさんは車椅子なしには移動できず、クズマさんの胴体前面には大きな縫合の痕が残った。

「18-24歳の傷痍軍人2人だ」とブロシュコフさんは皮肉交じりに言った。

ブロシュコフさんは、ロイターが特定した11人の新兵グループのうち、同じく戦闘で負傷したイワン・ストロジュクさんら数人とも連絡を取り合っている。

新兵2人が他の新兵との会話を引用し、同じグループの1人が自殺したと述べた。ロイターは遺体の写真などの文書から、この証言と同姓同名の人物が自殺していたことを確認した。

ドネツク州警察は、この自殺に関するコメント要請に応じなかった。

ブロシュコフさんは、全身を弱らせるほどの足の痛みと悪夢にうなされながらも回復しつつある。後悔はほとんどないと言う。

「私は20歳だ。まだ本当の意味では人生を見ていないが、それなりの経験はした。もし、もう一度やれと言われたらやるだろう」

ブロシュコフさんは戦争が自宅や家族に及ばないために前線に向かうという決意を貫いた。「責任あるウクライナ市民が、すべきことをしたまでだ」

妻のクリスティーナさん(19)は、従軍経験が夫を変えたと語る。

「彼には辛いことだ。軍の仲間ほぼ全員が姿を消した」

「この契約はしない方がよかった。それほど多くの若者たち、18歳の子どもたちが亡くなった。彼らにはまだ学び、成長する必要があった」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、12月会合で利上げの可能性強まる 高市政権も

ワールド

アングル:「高額報酬に引かれ志願」、若きウクライナ

ワールド

ハマス返還の人質の遺体、イスラエルが身元特定

ワールド

〔ロイターネクスト〕気候とエネルギー、なお長期投資
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中