コラム

誤情報も流暢に作成する対話型AI「ChatGPT」の科学への応用と危険性

2023年04月11日(火)12時40分

さらに自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」の事務局長である塩崎彰久衆議院議員によると、同日、アルトマン氏は同チームの会合に参加し、日本に対して以下の7つの提案を行いました。

1. 日本関連の学習データのウェイト引き上げ
2. 政府の公開データなどの分析提供等
3. LLM*を用いた学習方法や留意点等についてのノウハウ共有
4. GPT-4の画像解析などの先行機能の提供
5. 機微データの国内保全のため仕組みの検討
6. 日本におけるOpen AI社のプレゼンス強化
7. 日本の若い研究者や学生などへの研修・教育提供
*注:大規模言語モデル(Large Language Models)のこと

このように急速に広まり、「インターネットの登場を超えるインパクト」とも言われているChatGPTですが、科学の世界でも早々に実験や検証の対象として扱われたり、論文の著者として登場したりしています。今回は、医学分野で検証した結果から、ChatGPTの科学への適応性と限界について見てみましょう。

米国医師免許試験の合格圏に

世界で最も権威のある学術誌の一つである「Nature」は23年1月に、「ChatGPTなどのAIは、学術論文の内容や倫理規範に責任を持つことができないため、研究著者としての基準を満たしていない」という見解を掲載しています。

この記事が掲載された時点で、ChatGPTが共著者として参加した論文はすでに4つありました。なかでも特に注目されたのは、ハーバード大学医学部のティファニー・H・クン氏らの研究チームがChatGPTにアメリカの医師免許試験(USMLE)を受けさせた実験です。研究成果を発表した論文には、ChatGPTが共同執筆者として3番目に掲載されています。

ChatGPTは、膨大な量の既存のテキストデータを収集し、機械学習と強化学習を通じて確率的にもっともらしい文章を作成していく仕組みです。クン氏らは、一般公開されている376問の試験問題からすでにChatGPTに学習された可能性のある問題を排除した305問についてChatGPTに入力し、解答させました。採点は2人の医師によって行われました。

USMLEには臨床データから見解を記述させるような複雑な問題もありますが、ChatGPTは94.6%の一致率で問題内容に沿った的外れではない解答を作成しました。全分野にわたって50%以上の正答率を上げ、そのうちのほとんどが60%を超えていたといいます。USMLEの合格基準は約60%の正答率であることから、ChatGPTは試験にギリギリ合格圏に入るということです。

さらに、解答内容に新規性、進歩性、妥当性があるかどうかを検討したところ、全体の88.9%で少なくとも1つの有意な洞察が見受けられたといいます。研究チームは「ChatGPTの解答から新しい知見や改善策を得られる可能性があり、医学を学ぶ人の支援になるかもしれない」と語っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story