コラム

バレンタインに知っておきたい、チョコレートの甘くない歴史とトリビア

2023年02月07日(火)11時30分

大手製菓メーカーからも、次々とチョコレートの効能をうたった製品が発売されています。有効成分とされるものは、主に①カカオポリフェノール、②カカオプロテイン、③テオブロミンです。

カカオポリフェノールは、赤ワインやりんごなどに含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化物質です。細胞障害の原因となる活性酸素の働きや、悪玉コレステロール(LDL)の酸化を抑えるため、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立つと考えられています。

米コーネル大と韓国ソウル大の研究グループは2003年、1杯あたりの抗酸化能力を比べると、ココア飲料は、紅茶の4~5倍、緑茶の2~3倍、赤ワインの2倍程度あったと報告しています。14年に明治が行った「チョコレート摂取による健康機能に関する実証研究」では、347人がカカオ分72%のチョコレートを1日25グラム、4週間摂取したところ、最高血圧と最低血圧のピーク値が下がる効果が認められたと言います。

カカオに含まれるタンパク質「カカオプロテイン」の効能は、上記の実証研究で示唆されたものです。被検者の「便秘症状が改善した」という声は、カカオポリフェノールの効果では説明がつかなかったため、カカオプロテインがクローズアップされました。15年に行われた研究により、難溶性の性質を持つために大腸まで届き、便のかさを増やしたり、腸内細菌の養分となって整腸作用を及ぼしたりしていると説明がつけられました。

テオブロミンは、カフェインを摂取した動物の体内の代謝でも作られる物質です。精神の安定に役立つホルモン「セロトニン」の働きを助ける効果があるとされ、仕事や勉強の合間にチョコレートを食べることで、ストレスを和らげながら集中力を保てると考えられています。

ポリフェノール豊富のハイカカオチョコレートに潜むリスク

ハイカカオチョコレートは、概ねカカオ分70%以上のものを表します。カカオ含有量が高いほどポリフェノールなどの成分も増えるので健康への効果がより期待されます。10年に約15億円だったハイカカオチョコレート市場は、20年には約210億円まで成長し、チョコレート市場全体の約7%を占めるようになりました。

もっとも、国民生活センターは08年に、ハイカカオチョコレートのリスクについて調査しています。国内、海外製の計12種の市販品が対象で、普通のチョコレートと比べて「脂質を1.2~1.5倍含むので食べる量に注意」「テオブロミン及びカフェインを4倍含むものもあるので、これらの成分に感受性の高い人や気管支拡張薬を使っている人は注意」などと警告しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国との協力と日本との同盟「両立可能」

ワールド

ゼレンスキー氏、米に新たな和平案提示 「領土問題な

ビジネス

9月の米卸売在庫、0.5%増 GDPにプラス寄与か

ワールド

タイ首相、議会解散の方針表明 「国民に権力を返還」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story