コラム

オスだけ殺すタンパク質「Oscar(オス狩る)」のメカニズムが解明される

2022年11月29日(火)11時20分

共生細菌による宿主生物の生殖操作は、農業やヒトの疾病予防にも役に立つ技術です。

農業では、天敵農薬(害虫が天敵に捕食されることを利用した生物農薬)の効率的な生産などが期待されています。天敵農薬には、アブラムシを食べるナミテントウのように有用昆虫の雌雄で効果の変わらないものもあります。一方、コナジラミの天敵農薬として使われるオンシツツヤコバチは寄生バチの一種です。害虫の体内に産卵して殺す能力を持つのはメスだけなので、メスを選択的に生産できると都合が良いのです。

ヒトの疾病予防では、ネッタイシマカに対する取り組みが実用化しています。ネッタイシマカはデング熱やジカ熱を発症させるウイルスを媒介しますが、ボルバキアのwMel株が寄生するとウイルスの感染能力が阻害されることが知られています。そのため、ブラジルでは2017年から、ボルバキアを感染させたネッタイシマカを大量に放虫し、自然で非感染ネッタイシマカと交配させて、ボルバキア感染ネッタイシマカを人工的に増やす試みが行われています。細菌はシンガポール、インドネシアでも野外実験が進められており、感染率の大幅な低下も報告されています。

昆虫の体に入り込み性を操作する「謎の細菌」は、利用方法を工夫するとヒトの世界の生活向上にもつながります。「科学技術と社会」を象徴する一例とも言えるのではないでしょうか。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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