コラム

「17歳に引き上げ」のフィギュアから考える、一部競技に年齢制限が必要な理由

2022年06月14日(火)11時30分

10代のアスリートの健康は、なぜ大人よりも念入りに配慮しなければならないのでしょうか。

成長過程の子供の身体は、大人と比べて①骨が弱い、②筋力が弱い、③関節が柔らかいといった特徴があります。このため、運動強度が高かったり練習時間が長かったりすると、骨や関節にダメージや疲労が蓄積しやすく、スポーツ障害を起こしやすくなります。また、骨よりも筋のほうが遅れて成長するため、身長が伸びる時期には筋の柔軟性が低下してケガをしやすくなると考えられています。

さらに、小さくて軽い身体のほうが有利に働く競技では、コーチや保護者などの周囲の大人に「勝利のための過度のダイエット」を強いられるおそれがあります。

平昌、北京と二大会連続でフィギュア女子の五輪金メダリストを排出し、ワリエワ選手も所属しているロシア名門スポーツ学校「サンボ70」では、脂肪がつきやすくなる前の年齢の女子選手に四回転ジャンプなどの高難度ジャンプを飛ぶように指導しています。けれど、ドーピング疑惑とともに、水も自由に飲めないような度の過ぎる体重管理をコーチが強いていると、複数選手が証言しています。

日本国内でも、全日本柔道連盟が「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」と、全国小学生学年別大会を2022年度から廃止したことは記憶に新しいです。

04年度から始まったこの大会は5・6年生が対象の個人戦で、男女別、体重別に分かれて競いました。けれど、指導者が子供に減量を強いて軽量級に参加させるなど、子供の将来よりも目先の勝利にこだわる傾向が見られたと言います。

スポーツの年齢制限は、「年齢に関係なく、最も優れたパフォーマンスを行う選手が出場すべきだ」という議論とのせめぎ合いもあります。とりわけ、オリンピックは4年に1度なので、年齢制限の影響でキャリアのピークでの出場を逃す可能性もあります。

とはいえ、健康被害は選手の引退後の人生にも関わる問題です。各競技団体の慎重な対応はもとより、IOCや各国スポーツ庁なども競技団体に丸投げではなく積極的に意見交換していくべきでしょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、輸入インフレ警戒 中東紛争で景気下押し圧力

ビジネス

デンソーの5カ年中計、ROE10%・成長投資と株主

ビジネス

2月住宅着工、前年比4.9%減、4カ月連続マイナス

ビジネス

中国3月製造業PMIは50.4、1年ぶり高水準 持
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story