コラム

農業を救うべきなのではなく、農業が日本を救う。「だから、ぼくは農家をスターにする」 という未来予測

2015年12月29日(火)10時00分

都市の消費者と地方の生産者のつながりが、地縁とは違う新しいコミュニティを作る kazoka30-iStock.

 なんとかして農業を救わないと、農業が日本から消滅してしまう。そうした議論をよく耳にする。確かに金額ベースでの第一次産業の生産額は、減少の一途を今後たどるように見える。しかし日本は、より大きな問題を抱えているようにも思う。生きづらさという問題だ。

 いっこうに上がらない業績、給料。いきがいを見つけづらい社会。衣食住に不自由はないのに、希望を失い、鬱になる人々。成熟した資本主義社会が生むこうした問題を、実は農業などの第一次産業が解決してくれるかもしれない。

 また、これからは国家の機能が縮小し、人々はコミュニティが生活のベースになり、貨幣とは違う形で価値の交換が行われるようになる、という予測がある。新しいコミュニティの構築に向けて、第一次産業が大きな役割を果たすかもしれない。

 高橋博之著『だから、ぼくは農家をスターにする。』(CCCメディアハウス刊)を読んで、そうした未来の形がより鮮明に見えたような気がする。

yukawa151229-0202.jpg


「食べる通信」が見せる未来の社会

 この本は、新聞記者を志望していた高橋氏が、岩手県の県議会議員になり、その後「東北食べる通信」という情報誌の編集長になったライフストーリーでもあるが、実は日本の近未来の形を指し示してくれている未来予測の本でもあると僕は思う。

「食べる通信」は、第一次産業の生産者を取材して記事を書き、その生産者の生産物を宅配する、という情報誌だ。同様の情報誌と大きく違うのは、コミュニティを重視しているところだ。Facebook上で生産者と消費者が活発にやりとりを続けている。生産者は生産、出荷の様子などを投稿し、消費者は調理した様子などを投稿している。「ありがとう」「おいしかったです」「ごちそうさま」という言葉が頻繁に行き来しているようだ。

 また人数を限定したほうがコミュニティは活性化するので、メンバー数の上限を1500人に定め、入会待ちのリストができているという。

 メンバー数に上限がある代わりに横展開が始まっており、ウェブのプラットフォームを共有する「四国食べる通信」「北海道食べる通信」など、全国のあちらこちらで「食べる通信」編集部が自律的に立ち上がっている。

 そしてさらに高橋氏たちは、その生産者と消費者の関係性を、世界に輸出しようと動き出している。

 さてではどうして僕は、この本を未来予測の本と考えるているのか。その根拠を説明したい。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナへの安全保証に関与も 18日の首脳会

ワールド

パキスタンの豪雨、死者少なくとも337人に 行方不

ビジネス

エア・カナダ客室乗務員、復職命令を拒否 ストライキ

ビジネス

米司法省、加州トラック排ガス規制の阻止求め提訴
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story