コラム

ロシアは地上戦だけでなく、スパイ戦でも惨敗...米情報機関の「ロシア人スパイ募集」動画の中身

2023年06月17日(土)19時36分
米CIA本部

CIA本部 Larry Downing-Reuters

<CIAとFBIが立て続けに「ロシア人スパイ」を求めるメッセージを発信。現在はロシアの内部情報にどれだけアクセスできているのか?>

ロシアのウクライナ侵攻の裏では、西側の情報機関の動向も注目されている。

■【動画】CIAの「ロシア人スパイ募集」動画の中身を、翻訳付きで解説

今回のウクライナ侵攻では、ロシアが武力行使を行う5カ月ほど前の2021年11月頃から、アメリカのCIA(中央情報局)をはじめとするインテリジェンス・コミュニティからロシアの侵攻に向けた動きを裏付けるような機密情報がもたらされていた。こうした情報は、アンソニー・ブリンケン国務長官など米政府関係者からだけでなく、メディアなどを通しても意図的に公開されていた。

CIAについてはこれまでも、ロシア政府の中枢に近いところにどれほどのアセット(協力者)がいるのかがインテリジェンス界隈では関心事になってきた。というのも、CIAには以前、ロシアで政権内部のかなりハイレベルな機密情報を提供できる重要なスパイがいて、プーチンや周辺の情報にアクセスできていたとされるからだ。だが2017年に正体がバレる可能性が高まったとして、やむなく救出してアメリカに亡命させたと言われている。この話は、2019年に複数の政府関係者の証言から明らかにされた。

これは一例に過ぎないが、こうした話から、CIAは今回のウクライナ侵攻でロシアの政権内部や動向についてあまり確度の高い情報は以前のようには収集できていないのではないかとの見方もあった。ところが、2023年4月に大きな話題になった米州兵による「ウクライナ侵攻などに関わる米機密」の流出事件では、米情報機関がロシアの内部情報などもかなり掴んでいたことが明らかになった。

スパイ合戦でも圧倒されているロシア

結局のところ、米情報機関は、NATO加盟国や西側の価値観を共有するような国々の情報機関による対ロシアのインテリジェンス活動からも、かなりの情報を収集している。ウクライナ情勢をめぐるスパイ合戦でも、ロシアはロシアをライバル視する多くの国々と対峙していることになり、圧倒されている可能性が高い。

CIAは5月、あらためてロシア人などロシアについての情報を集めることができるスパイを募集するロシア語の動画を公開した。「私が CIA に連絡した理由:私の決断」という2分弱の動画は、YouTubeの公式チャンネルなどでアップされている。

さらに特筆すべきは、暗号通信ができる「Tor(トーア)」を使ってダーク(闇)ウェブを介した連絡方法も提示し、協力者が誰にもバレないでCIA側に接触できるようにしていることだ。国を裏切ることになるロシア人のスパイは、身バレを心配することなくCIAに協力することができるということだ。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-午後3時のドルは155円半ばで底堅い、円弱含

ビジネス

ホンダの今期、営業利益予想2.8%増 商品価値に見

ビジネス

オリンパス、発行済み株式の5.15%・1000億円

ビジネス

ホンダ、発行済み株式の3.7%・3000億円上限に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story