コラム

FRB議長も、メルケル元首相もひっかかった! 要人を次々に騙す「ロシアの2人組」の正体は?

2023年05月13日(土)18時53分
ドイツのメルケル元首相

ドイツのメルケル元首相も騙された(写真は2023年3月) Vogler/Pool via REUTERS

<要人になりすまして政財界の大物に電話をかける「ボバンとレクサス」。このたび見事に騙されたのはFRBのパウエル議長だった>

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がロシアのイタズラの「被害」に遭っていたことが判明したのは4月末のことだった。ロシア人コメディアンである「ボバンとレクサス」というコンビに騙されて、リモート会談に臨んでいる姿が公開された。

■【動画】世界の要人たちがひっかかっている実際の映像...日本の要人は大丈夫か?

パウエル議長は2023年1月に、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の「声真似」をしたボバンとレクサス側と、15分以上、真面目に経済の話をした。アメリカの中央銀行にあたるFRBの議長がまんまといたずらに騙されたことで、リテラシーとセキュリティを懸念する声が上がった。

パウエルは、ロシア中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁について、ロシアのウクライナ侵攻による西側諸国からの経済制裁の中で踏ん張っていると評したという。さらに、2023年はアメリカは景気低迷すると述べ、その理由はインフレ抑制のために利上げしたためだとも述べたという。

ちなみに筆者の取材に応じたウクライナの政府関係者は、「ボバンとレクサスは、ロシア情報機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)とつながっている。そうでないと、これまでのように錚々たる面々にアクセスすることもできないだろう」と述べている。

そう、これまでにボバンとレクサスに騙された要人は多い。

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ロシア版YouTubeの、「ボバンとレクサス」のチャンネル

エルトン・ジョンにはプーチンが謝罪する羽目に

2014年に活動を始めてから、当初はロシア人著名人にイタズラをしていたが、その後は外国要人を狙うようになった。

例えば、ボバンとレクサスは2015年に、ウラジーミル・プーチン大統領のフリをして英歌手のエルトン・ジョン氏を騙して、同性婚事情について話をした。この件では後に、プーチンがエルトンに実際に謝罪をしたと報じられている。

それ以外にも、2022年には、イギリスのベン・ウォレス国防相をウクライナのデニス・シュミハリ首相からの連絡であるかのように騙して、15分ほどウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟の是非について議論し、その様子を動画で公開している。

さらに過去には、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領もやられているし、最近では、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相や欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁も騙して、その様子を動画で公開している。

ちなみに、ボバンとレスサス側は、ロシア政府やFSBとのつながりを否定しているという。

このボバンとレクサスについては、「スパイチャンネル~山田敏弘」の「ロシアの悪戯コメディアンが次々に騙している」で詳細を解説しているのでぜひご覧いただきたいと思う。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

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