コラム

テロが招く国家間戦争...インド×パキスタン、カシミールで始まる報復連鎖が「核」に火をつける日

2025年05月15日(木)12時05分

パキスタン首相シェバズ・シャリフは「戦争行為」と非難し、報復を表明。両国間の軍事衝突は、核保有国同士の対立として国際社会に深刻な懸念を引き起こしている。

カシミール地方は、印パが領有権を争う係争地であり、テロ事件が繰り返されてきた。1947年の分離独立以降、カシミールの帰属を巡る対立は三度の戦争を引き起こし、1949年の停戦ライン(現:LoC)で分断された後も緊張が続いた。


1980年代以降、パキスタンを拠点とする過激派組織がテロを活発化し、2001年10月のジャム・カシミール州議会襲撃(38人死亡)では、LeTとジャイシュ・ムハンマド(JeM)が関与し、印パ間の軍事衝突が危惧された。同年12月のインド連邦議会襲撃も同様に緊張を高めた。

2019年2月のプルワマ自爆テロでは、JeMがインド治安部隊を攻撃し40人以上が死亡。インドはパキスタン側支配地域を空爆し、パキスタンはインド戦闘機を撃墜。戦争は回避されたが、両国の対立は深刻化した。これらの事件は、カシミールでのテロが国家間の軍事衝突を誘発する危険性を示している。

アルカイダやイスラム国によるテロは国際協力を誘発

アルカイダやイスラム国(IS)など非国家主体のテロは異なる様相を呈する。アルカイダは2001年の9.11テロや1998年の米大使館爆破、2005年のロンドン地下鉄爆破など、グローバルな攻撃を展開。ISは2014年に「カリフ国家」を宣言し、2015年のパリ同時多発テロなどで国際社会を震撼させた。

しかし、指導者の殺害(ビン・ラディン2011年、ザワヒリ2022年、バグダディ2019年)や領土喪失により、両組織は弱体化。アフリカやアフガニスタンでの活動は続くが、これらのテロは国家間の直接的な戦争に発展する可能性は低い。国際社会は対テロ戦争や治安維持で対応し、局地的な混乱に留まるケースが多い。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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