コラム

テロが招く国家間戦争...インド×パキスタン、カシミールで始まる報復連鎖が「核」に火をつける日

2025年05月15日(木)12時05分
テロが招く国家間戦争...インド×パキスタン、カシミールで始まる報復連鎖が「核」に火をつける日

Dilok Klaisataporn -shutterstock-

<再び流血の舞台となったカシミール。国家の影がちらつく越境テロは、偶発的な衝突から全面戦争へと連鎖する危険をはらんでいる>

2025年4月22日、インドが実効支配するジャム・カシミール州のバイサラン渓谷(パハルガム近郊)で、観光客を標的とした銃撃テロが発生した。武装集団が主にヒンドゥー教徒の観光客26人を殺害し、17人が負傷した。この攻撃は、2000年以降で民間人を標的とした最も死者数の多いテロ事件となった。

インド当局は、攻撃を「越境テロ」と断定し、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派組織「抵抗戦線(TRF)」が犯行声明を出したと発表。ただし、TRFは後に声明を否定した。


インドはTRFを、パキスタン拠点のラシュカレ・トイバ(LeT)の分派とみなし、パキスタンの関与を非難。ナレンドラ・モディ首相は「テロリストを追跡し処罰する」と報復を宣言した。一方、パキスタン政府は関与を否定し、中立的な第三者調査を提案したが、インドに拒否された。

過去にも同様の事件が連鎖してきたカシミール

インドは直ちに対抗措置を講じた。主要な陸路国境の閉鎖、パキスタン人へのビザ発給停止、外交官以外の国外退去命令を発出し、インダス川条約の停止を宣言。

パキスタンはこれを「戦争行為」とみなし、対抗措置としてインド便の領空通過禁止や貿易停止を決定。両国間の緊張は急激に高まり、4月24日から支配線(LoC)沿いで小規模な銃撃戦が頻発した。5月7日、インドは「Operation Sindoor」と名付けたミサイル攻撃を実施。

パキスタンとパキスタン支配のカシミールにある9カ所の拠点を攻撃した。インドは民間人や軍事施設を避けたと主張するが、パキスタンはモスクを含む民間施設が攻撃され、26人が死亡、46人が負傷したと発表した。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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