最新記事

戦争

ウクライナ、知られざるもう一つの戦い 長期にわたるストレスで家庭内暴力が大幅増加

2023年8月8日(火)20時31分
日記の上に置かれたスマートフォン

リューボフ・ボルニアコワさん(写真)は1月、ウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で遺体で発見された。5月撮影(2023年 ロイター/Alina Smutko)

1月8日夜、リューボフ・ボルニアコワさん(34)の遺体がウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で発見された。検視官は75カ所の打撲傷が確認されたと報告している。

リューボフさんの親族と隣人によれば、夫のヤコフ・ボルニアコフさんは軍を脱走し、事件前の1カ月間は自宅アパートに身を潜めていた。リューボフさんの死に至るまでの2週間、夫は酒浸りになり彼女を何度も殴っていたという。

 
 
 
 

「腕、顔、足、殴られた跡がない部分がなかった」

リューボフさんが死亡した数時間後にアパートに到着したおばのカテリーナ・ウェドレンセワさんは、そう振り返った。

ドニプロ警察の広報官は、リューボフさんの死に関して刑事捜査が行われていると述べ、詳細については明らかにしなかった。

2022年2月にロシアによる侵攻が始まった当初は、ウクライナにおける家庭内暴力(DV)の報告件数は減少していた。数百万人が戦火を逃れて避難したためだ。

だが今年に入り、避難していた家族が自宅に戻ったり新たな住居に落ち着くなかで、DVの件数は急増しているという。ロイターが検証した、これまで報道されていなかったウクライナ警察のデータから明らかになった。

データによれば、今年1─5月に報告された件数は昨年同時期と比べて51%増加した。過去の最多記録である2020年よりも30%以上も多い。専門家は、この年はコロナ禍によるロックダウンが背景にあると指摘していた。

ロイターがDV問題に取り組む当局者や専門家10数名に取材したところ、こうした増加は、ストレスや経済的な困難、失業、侵攻に関連したトラウマが原因だという。事件の大半では、被害者は女性だ。

ウクライナでジェンダー政策担当委員を務めるカテリナ・レフチェンコ氏は、5月にロイターのインタビューに応じ、「(DVの増加は)心理的な緊張と、多くの困難のためだ。人々はすべてを失った」と述べた。

警察では、2023年1月から5月までに34万9355件のDV事件を記録している。これに対し、2022年の同時期は23万1244件、2021年は同19万277件だった。

ロイターの取材に応じた専門家や弁護士の大半は、戦争が続く限りDVを巡る状況は悪化し、戦争終結後も、前線から戻った戦闘員が負った心的外傷のために長期化するのではないかと懸念している。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中