最新記事

中国

中国人なら騙されない 「中国でクーデター」説が拡散した3つの理由

2022年10月3日(月)15時30分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
習近平

国慶節前夜の9月30日、人民大会堂でのレセプションに出席した習近平 FLORENCE LO-REUTERS

<軍がクーデターを起こし、習近平が姿を消した――。法輪功のグループが噂を広めたが、世界の大半の人々は中国の現実を知らない>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に対し、李橋銘(リー・チアオミン)という将軍がクーデターを起こした──その噂は9月23日頃から在外華人社会で広まり、インドのメディアを通じて一気に拡散した。

習は27日に公の場に姿を現し、噂は否定されたが、一時は多くの人の目に触れ、一部の著名人もこの説を繰り返した。

中国共産党内で習に対するクーデターが起こる可能性はゼロではない。経済的失政と政策ミスへの不満は、エリートの間でも高まっている。

だが、今回の説には何の根拠もない。この手の噂が中国国外で繰り返し浮上するのは、中国の権力中枢に関する情報が少なすぎる上に、ひどい曲解を生みかねないからだ。

在外華人社会の反共産党グループの間では、北京の権力中枢内部の陰謀話がしばしば関心を集める。その大半は根拠のない単なる噂だが、かつては内輪話にすぎなかったものが、今はSNSで拡散される。

今回の場合、中国国内の航空便が欠航しているという反体制派ジャーナリストの主張が発端だった。

多くの場合、こうした噂を広める上で重要な役割を果たすのは、中国で弾圧されている新興宗教・法輪功のグループだ。

9月23日、法輪功系のジャーナリストが噂を取り上げ、何度もツイート。それをインドのメディア、特に国粋主義的なインディアTVと一部の政治家が拡散させたが、専門家が繰り返し反論したため、噂は沈静化した。

この騒ぎは中国政治の何を物語っているのか。

第1に、共産党の厳しい情報統制が噂の呼び水になること。クーデター説の唯一の証拠は、習が9月16日に中央アジアから帰国してから公の場に姿を現さなかったことだ。習も人間なので風邪をひいたり休暇を取ったりするはずだが、共産党はそれを認めることができない。強い英雄的指導者のイメージに傷が付くことを恐れているからだ。

党首脳は基本的に情報を公開しない。私生活を調べようとすれば、中国では厄介な問題になる。

第2に、世界の大半の人々は中国の日常的現実を知らない。航空便が欠航になったという話も、ゼロコロナ政策の影響で中国の航空便が頻繁に欠航になることは中国人なら周知の事実だ。

パンデミックに伴う孤立化のため、外部の世界から見る中国の姿と現実のギャップは広がる一方だ。インドの場合、中国に特派員を置くメディアは噂をあおるのではなく、沈静化させる報道を行っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とロシア、核兵器は人間だけで管理すると宣言すべ

ビジネス

住友商、マダガスカルのニッケル事業で減損約890億

ビジネス

住友商、発行済み株式の1.6%・500億円上限に自

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中