最新記事

エネルギー

ドイツは原発の運転期間延長できるか? ロシア天然ガス供給減のなか賛否渦巻く

2022年6月25日(土)11時34分
ドイツ南部グンドレミンゲンの原発

ドイツはロシア産天然ガスの供給が完全にストップする場合に備え、原子力発電を含むあらゆる国内電源の活用を検討している。写真は2021年末に停止した南部グンドレミンゲンの原発。2021年12月29日撮影(2022年 ロイター/Lukas Barth)

ドイツはロシア産天然ガスの供給が完全にストップする場合に備え、原子力発電を含むあらゆる国内電源の活用を検討している。2011年に日本で起きた福島第1原発事故を受け、メルケル前首相は原発の利用停止を約束し、主要な電力会社は今年末までに残る原子炉3基の稼働を停止する準備を進めてきた。

電力会社は、燃料棒と専門スタッフの手配に制約があるため、原子炉の運転期間延長は不可能だとしている。政府も3月、法律、安全、経済負担の問題に鑑みて運転期間延長を却下した。

もっとも、社会民主党(SPD)率いる政権内の一部リベラル派と、野党・保守政党内の一部からは、環境上の理由で国が段階的脱却を進めてきた石炭の活用が再検討されている以上、原発も再検討すべきだとの声が出ている。

ショルツ首相は今のところ、原発の運転期間延長に反対している。

天然ガス供給が縮小

ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を開始して以来、ドイツは天然ガス輸入に占めるロシア産の割合を55%から推計35%に減らしたが、今も依存は続いている。

欧州連合(EU)はロシア産エネルギーの利用削減を模索してきた。ロシア側もドイツに天然ガスを送る主要パイプライン「ノルドストリーム1」の稼働率を40%に削減。ロシアは西側の制裁によって修繕作業が遅れていると説明するが、欧州側は供給削減の口実に過ぎないとしている。

いずれにせよ、ドイツ連邦ネットワーク庁は家庭の暖房用と産業用のエネルギー供給に支障が出ると予想している。供給不足による価格高騰は、景気後退リスクを高めることにもつながる。

天然ガス火力発電はドイツの発電の15%を占める。石炭と併せて原発を活用すれば、発電セクターの窮状が緩和される可能性がある。

ドイツの大手電力会社エーオン、RWE、EnBWが運営する原発3基の発電能力は合計4300メガワット(MW)。昨年までは原発6基が稼働して国内電力の12%を供給していたが、昨年末に3基が稼働を停止した。

これ以外のドイツの代替エネルギーは、天候に左右される太陽光・風力発電および、輸入液化天然ガス(LNG)となる。

ただLNGは、輸入施設の容量不足と国際市場における獲得競争という問題がある。特に今月は、米国最大級のLNG輸出用プラントが爆発事故で稼働を停止している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

米、イスラエルへの兵器出荷一部差し止め 政治圧力か

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中