最新記事

中東

サウジ皇太子を記者殺害で「有罪」認定でも制裁できない訳

2021年3月2日(火)19時45分
エイミー・マッキノン、ジャック・デッチ

報告書はムハンマド皇太子が殺害を承認したと結論付けたが、制裁は見送り BANDAR ALGALOUDーCOURTESY OF SAUDI ROYAL COURTーHANDOUTーREUTERS

<中東政策上、サウジとの関係を維持したいバイデン政権は皇太子本人への制裁を見送り>

バイデン米政権は2月26日、ワシントン・ポスト紙のコラムニストだったジャマル・カショギが2018年に殺害された事件に関連して、サウジアラビアのムハンマド皇太子が殺害作戦を承認したと結論付ける調査報告書を公表した。

この報告書は、トランプ前政権が議会への提出を繰り返し拒否したものだ。皇太子が国政の主導権を握っていたこと、側近サウド・アル・カハタニの関与、皇太子が「国外の反体制派を黙らせるための暴力的手段の行使を支持した」ことなどを結論の根拠にしている。ただし4ページの報告書は、皇太子の関与を示す具体的証拠には何も触れていない。

サウジアラビア政府は事件について、カショギを帰国させるために派遣された特殊チームによる「命令を逸脱した作戦」の結果だとしてきた。

米議会民主党は、早速この報告書をトランプ批判に利用した。「トランプ大統領が情報の開示を何年も拒み、外国要人の凶行を擁護したことは、在任中の多くの汚点の1つになる」と、ロバート・メネンデス上院外交委員長は言った。

トランプ政権下で親密だったアメリカとサウジ

皇太子を殺害作戦の黒幕とする見方は以前から多かったが、報告書の公開は前政権下で親密の度を増した両国関係の大きな変化を示唆するものである可能性がある。

ロイター通信は26日、バイデン政権はサウジアラビアへの武器売却を「防衛用」兵器に限定することを検討中だと報じた。同政権は6年近く続くイエメン内戦の終結に向けて協力するよう、サウジアラビアに圧力をかけてもいる。

ブリンケン米国務長官は同日、カショギを含む国外の反体制派を脅したり抑圧しようとしたサウジアラビア人76人に対する新たなビザ制限を発表。「国内の全ての人々の安全のため、外国政府の意を受けて反体制派を狙う者の入国を許すべきではない」と述べた。

米財務省はカショギ殺害に関与したとみられる複数の人物への制裁を発表。その中には皇太子の警護担当者も含まれていた。だがバイデン政権はサウジ王室との関係維持のため、皇太子本人への制裁は見送るようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、19日からベトナム訪問 武器や決済など

ワールド

アングル:仏財政危機への懸念高まる、市場は英トラス

ワールド

NATO、核兵器配備を協議 事務総長「透明性を抑止

ワールド

中韓外交・安保対話、18日に初会合 韓国外務省発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 4

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 9

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 10

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中