最新記事

スポーツ

タイガー・ウッズ復活はおじさんたちへの応援歌

WHO TIGER’S COMEBACK REPRESENTS

2018年8月28日(火)15時45分
デービッド・マギー

全米プロ最終日の18番ホール、ウッズはバーディーパットを沈めてガッツポーズを決めた JERRY LAI-USA TODAY SPORTS-REUTERS

<数々の苦難を乗り越えて全米プロで2位に入った姿に多くの男性が自らの境遇を重ね合わせた>

8月12日に終わったゴルフの全米プロ選手権で、タイガー・ウッズ(42)は優勝は逃したものの2位に入り、「復活」を印象付けた。

ウッズが首位と4打差で迎えた最終日を、全米の中年男性が固唾をのんで見守った。全米プロ制覇は復活の確かな証拠になる。彼らがウッズを応援したのは、「俺たち」の代表だと感じられたからだ。

白人でも黒人でも真面目に働いてきた男性なら、いい時もあれば不遇の時代もある。かつての栄光を取り戻すため、闘わざるを得なかったこともある。

彼らにとってウッズの復活は、自分自身の復活に重なって見えた。大会のテレビ視聴率からは、どの瞬間も視聴者が熱い思いで見ていたことが分かる。

ウッズが若くして世界ランキングでトップに立ち、21世紀のジャック・ニクラウスと言われた時代には、全ての男性が支持していたわけではない。15年前にアメリカのゴルフ場で男たちがコースを回っているときに「一番すごいゴルファーは誰か?」という話題になると、白人男性の4人に3人がウッズではなく、フィル・ミケルソンと言っただろう。80年代のバスケットボール界でラリー・バードとマジック・ジョンソンのファンが、白人と黒人に分かれたのに似ている。

でも、今は違う。コースを回る中年男性は、自分がどんな人種であろうと、最高のゴルファーはウッズだと言うだろう。アメリカ社会で人種間の対立が鮮明になった今、彼の復活には応援せずにいられない夢がある。

ウッズの転落の始まりは、米経済の景気後退の始まりと重なっていた。それまでは金儲けも、PGAトーナメントで毎週優勝することも、全てが簡単に思えた時代だった。でも、そんなバブルははじけ飛んだ。

彼の凋落、わが身の凋落

30 代前半で史上最高のゴルファーと呼ばれ、PGAツアーで通算79勝したウッズにとって、終わりの始まりは07年7月に訪れていた。ウッズは全英オープン出場後、左膝前十字靭帯を断裂する。その後も優勝はしたが、選手生活にも私生活にも徐々にほころびが生じた。

アメリカの不動産バブルがはじけたのは、ほぼ同じ時期だ。それまで「勝ち組」だったアメリカ人も、おかしなことになってきた。ウッズの凋落を笑っていた男たちは、気が付けば自分を笑うことになった。バブルが崩壊すると、彼らもウッズと同じく人生の悲哀を味わった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナで化学兵器使用 禁止条約に違反=

ビジネス

ドル一時153円まで4円超下落、再び介入観測 日本

ワールド

米、新たな対ロシア制裁発表 中国企業を狙い撃ち

ビジネス

米地銀NYCB、向こう2年の利益見通しが予想大幅に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中