最新記事

サプライチェーン

貿易戦争が米企業に迫る「メイド・イン・チャイナ」再考 米国工場の方が低コスト?

2018年8月27日(月)15時45分

浙江省杭州市で2018年6月、輸出用自転車部品工場で働く女性(2018年 ロイター)

約30年前、低コストの世界製造拠点として発展しつつあった中国南部にやってきたラリー・スローブン氏は、これまでに電動工具からLED照明器具に至る数百万ドル規模の製品を、米国の大手小売業者向けに輸出してきた。

そうした時代は終わりを迎えつつあるのかもしれない。

生産コストの上昇や規制強化、さらにサービス業中心の持続可能な経済構築を目指す中国政府の政策がローエンドの製造業を圧迫したことによって、スローブン氏の利益は年々削られてきた。

しかし、最後の一撃となるのは、米中貿易戦争によって高まる新たな関税リスクや、世界で台頭する保護主義だろう。

「一歩、また一歩、さらにもう一歩と、中国での製造コストはどんどん高くなってきていた」と語るスローブン氏。彼は米フロリダ州ディアフィールドビーチに本拠を置く家電製造キャップストーン傘下のキャップストーン・インターナショナル(香港)の社長を務めている。

広範な経済近代化策の一環として、中国政府がローエンドの製造業からハイテク産業へと優遇対象を転換する中で、製造業界はその圧力を感じてきた。

だが関税が発動される中で、「皆ついに目が覚めて、現実に向き合おうということになった」とスローブン氏は語る。製造業界は、「次の関税措置がとどめを刺すかもしれない」と懸念を深めているという。

スローブン氏は、中国でのエクスポージャーを減らして、タイなど成長する製造拠点に足場を広げようとしている。

「チャンスがありそうなのは、タイ、ベトナム、マレーシア、そしてカンボジアだ」とスローブン氏。「だが、皆が思うほど簡単ではない。中国で次に何が起きるのかも分からない」

医療機器から農業用具に至る米国の製造メーカー10数社をロイターが取材したところ、自国向け輸出を手掛ける企業が、どのように中国における製造戦略を見直そうとしているかが浮き彫りになった。

「関税の話が出る前は、生産全体の3割を中国から米国に移すことを検討していた」と、医療製品の米製造会社プレミアガードで欧州ディレクターを務めるチャールズ・ハブス氏は言う。賃金上昇や労働力の縮小、コスト急騰が、その理由だった。

「最近の関税を巡る動きを受け、実際に関税が発効するならば、生産の6割を中国から米国に移すことになるだろう」

他の米国企業も、選択肢を急ぎ検討している。

「現在の関税環境を踏まえれば、われわれのような企業が、社内でその影響を試算し、その軽減策を講じることは、自然なことだ」と中国を拠点とする米大手製造企業の幹部は語った。

対策としては、「中国からの調達拡大を控え、他の国からの調達に切り替えるか、雇用を米国に再移転する」ことなどが検討されるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅反落、一時3万8000円割れ 米景気

ビジネス

午後3時のドルは横ばい圏157円前半、仏政局不安で

ワールド

台湾は中国との戦争を求めておらず、抑止力構築目指す

ワールド

中国当局、空売りの抑制強化へ 大株主の違法売却に厳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 4

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 9

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 10

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中