最新記事

ドイツ

ドイツはロシアから東欧を守れ

2017年10月6日(金)18時16分
ピーター・クレコ(ハンガリーに拠点を置く政治資本研究所ディレクター)

これら4カ国はEUやNATO(北大西洋条約機構)を強く支持する一方、西側、特にその政治指導者に対しては、複雑な感情を持っている。

移民排斥や愛国主義といったポピュリストの台頭は、メルケルのイメージを傷つけた。ロシアも、人々の不満に付け込んで反メルケルの情報操作に一役買った。メルケルはリベラル的な寛容を嫌う人々の敵になった。メルケルのような超リベラル主義は衰退する西欧エリートの象徴で、多文化主義や連邦主義の原則のためには欧州の安全保障をも犠牲にし、東欧諸国を移民でいっぱいにしようとしている、というわけだ。

メルケルが、最初は寛容だったシリアなどからの難民・移民の受け入れを厳格化し、イスラム教徒の女性に顔や全身を覆う「ブルカ」の着用を禁止したことは、東欧ではほとんど注目されなかった。東欧から見たドイツは、リベラルの覇者として自国の価値観を近隣諸国に押し付けてくる偽善国家だ。

ヴィシェグラード4カ国の欧州懐疑主義は反ドイツ的な姿勢を煽り、ドイツが東欧を経済的に搾取しているという根拠のない見方も広がっている。

プーチンは強く、伝統を守る指導者

ハンガリーのビクトル・オルバン首相は7月下旬に行った演説で、ドイツ企業をやり玉に上げた。「ドイツは、ハンガリーには連帯が足りないと批判する前に、5回考え直すべきだ。ドイツ人労働者は、ハンガリーのドイツ企業でドイツ人とまったく同じ作業をするハンガリー人より、5倍も高い給料をもらっている。それを棚に上げて他国の連帯について口出しするなど、恥を知るべきだ」

東欧のロシアに対する見方は、ドイツとは対照的だ。チェコとスロバキア、ハンガリーの3カ国では、よくプーチンがメルケルに対峙する指導者として描かれる。プーチンは国家や家族、キリスト教といった伝統的な価値観の擁護者だ、グローバルなテロとの戦いに効果的に対抗できる強者だ、もしプーチンが欧州の政治指導者なら難民危機を簡単に解決できた、という肯定的なイメージだ。

難民危機は、リベラルを否定し移民を嫌悪する東欧の風潮に拍車をかけただけでなく、東欧とドイツとの心理的な距離を広げ、逆にロシアとの距離を縮めた。

ドイツはこれまで、経済的な利益を優先させ、東欧との直接的で激しい対立を避けてきた。だがドイツの政治家たちは、この地域に及ぼされた政治的なダメージを自覚する必要がある。メルケルとエマニュエル・マクロン仏大統領が欧州統合の深化に向けて連携するつもりなら尚更だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、インド大手銀行に2400億円出資 約

ビジネス

米国は最大雇用に近い、経済と労働市場底堅い=クーグ

ビジネス

米関税がインフレと景気減速招く可能性、難しい決断=

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中