最新記事

監督インタビュー

台湾生まれの日本人「湾生」を知っていますか

2016年11月15日(火)17時40分
大橋 希(本誌記者)

©田澤文化有限公司

<ドキュメンタリー映画『湾生回家』の黄銘正監督に聞く、戦後日本に引き揚げた台湾出身の日本人「湾生」に共感する台湾の人々の心情>(写真:戦後に台湾から日本本土へ帰還した日本人は約50万人と言われる)

 1895~1945年の50年間、日本が台湾を統治していたことはよく知られている。では、その間に台湾で生まれ育った「湾生(わんせい)」と呼ばれる日本人についてはどうだろうか。

 当時、公務員や駐在員、軍人のほか、開墾のために移民として多くの日本人が台湾に渡った。日本の敗戦後、日本本土へ帰還したのは約50万人。うち20万人が、台湾で生まれ育った湾生だとされる。湾生にとっての故郷は台湾であり、わずかな荷物だけを持って未知の国・日本へと連れ戻されたときの混乱と苦労は計り知れないものがあっただろう。そんな彼らの台湾への思いを丁寧にすくい上げたのがドキュメンタリー映画「湾生回家(わんせいかいか)」だ(日本公開中)。

 40人近い取材対象者の中から6人の湾生の声を中心に構成しているが、単なる老人たちの郷愁の物語ではない。彼らの人生はもちろん、日台の歴史と関係について改めて知ることも多い。昨年公開された台湾では、若者を中心に異例の大ヒットとなったという。

 監督は台湾人の黄銘正(ホアン・ミンチェン)。プロデューサーと同郷だったことから監督として声を掛けられ、「そのときに初めて湾生という言葉を知った」という黄に話を聞いた。

【参考記事】じわじわ恐怖感が募る、『ザ・ギフト』は職人芸の心理スリラー

* * *


――「湾生」という言葉を知らなかったそうだが、なぜ題材として追ってみようと思った?

 以前から日本は親しみやすい国だと思っていたし、日本人に対してもそういう感情があった。台湾の中には今も日本文化の跡がたくさん残っていて、生活の中にも生きている。建築もそうだし、食べ物もそうだ。例えば台湾のオーレン(黒輪)は、日本のおでんからきている。台南地方では日本料理がとても好まれる。

 私の祖父母は日本語を話す世代で、2人が内緒話をするときは日本語でしゃべっていたのを覚えている。一方で、私たちの世代は歴史をちゃんと教えてもらっていなくて、台湾にはなぜこんなに日本文化が残っていて日本語を話す人がたくさんいるのか、よく理解できていなかった。この映画を撮ることは、自分自身の「なぜ」という謎を解くという意味もあった。

――台湾で若い観客が多かったのは、あなたのそうした思いと通じるものがあったからだろうか。

 確かにそれはあったと思う。今の台湾の若者と日本の接点といえばマンガやアニメがほとんど。ゲームで日本語を覚えたりしているが、かつて日本が台湾にどんな影響を与えたかは本当には理解していない。だから僕と同じような好奇心があったと思う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRB引き続き利下げ視野

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

イスラエル軍、ガザ攻撃「力強く継続」 北部で準備=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中