最新記事

中国

中国で記者が連続失踪と逮捕――背後にチョコレート少女の自殺と両会(議会)

2016年2月1日(月)15時52分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 中国では、これは「勇気」ではない。「犯罪」に相当する。おまけに反骨精神を持っていた3人は、1月13日の中国共産党宣伝部の宣伝内容を報道しようとしなかったという「報道しない自由」をも使おうとしたという。これはもっと重い「犯罪」に相当すると言っていいだろう。

 しかし、これらを逮捕理由にしたのでは、また暴動を招く。

 そこで当局は「ゆすりや脅し」という理由を付けたのだが、どのような脅迫をしたのかに関して、理由が二転三転している。

 3人のうち2人は釈放され、1人は逮捕されたが、その理由の中に「反政府的な公開状をネットに載せた」というのが付いていた。

 逮捕状などに関する具体的画像を見たい方は、「観察者」というウェブサイトをご覧いただきたい。逮捕状そのものも貼り付けてある。政府を批判する公開状は、本人が書いたものではないと、所属の新聞社は言っている。

 逮捕の正当性を裏付けるために「おとり捜査」も実行したようだが、要は「報道の自由」を弾圧したというひとことに尽きる。

 習近平政権になってから、報道の自由への弾圧が一段と厳しくなってきた。

 一党支配体制を崩壊させないために反腐敗運動の強化や国家新都市化計画により2.67億人に上る農民工の福利厚生問題を解決すべく取り組んではいる。そのために経済の成長が鈍化し、人民に逆に不満が出てくるといけないので、報道の自由に対する弾圧が非常に厳しくなっている。人権派弁護士ら、民主活動家からは「改革開放以来、最大の言論弾圧が起きている」という悲鳴が筆者のもとにも届く。

 1月5日付の本コラム<香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪――国際問題化する中国の言論弾圧>にも書いたように、言論弾圧は中国本土(大陸)だけでなく香港にも及んでいる。

 しかし、このようなことをすればするほど、人民の不満は高まるばかりだろう。携帯を通してネットにアクセスする「網民」(ネット人口)は今年1月の統計で9億人に達した。

 言論弾圧は逆効果だ。自由に発信する中国型LINE「微信」は、民主活動家や勇気のある記者の逮捕という旧来の言論弾圧手法では抑えきれない勢いになっている。規制されればされるほど、人民の「知る欲求」と政府への不満は強まっていき、政府転覆へとつながりかねないだろう。

 一党支配の限界を感じさせる事件であった。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UPS機が離陸後墜落、米ケンタッキー州 負傷者の情

ワールド

政策金利は「過度に制約的」、中銀は利下げ迫られる=

ビジネス

10月の米自動車販売は減少、EV補助金打ち切りで=

ワールド

ブリュッセル空港がドローン目撃で閉鎖、週末の空軍基
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中