最新記事

中国

中国で記者が連続失踪と逮捕――背後にチョコレート少女の自殺と両会(議会)

2016年2月1日(月)15時52分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

広がる格差 今も人力車が走る上海の裏通り Timparker121-iStock.

 甘粛省で記者が相次いで失踪、逮捕されている。背後にはチョコレートを万引きし自殺に追い込まれた少女の追跡取材や、年一回開催される地方両会(県議会などに相当)と全国両会(国会に相当)(北京で開催)がある。

チョコレート万引き少女の自殺に抗議して暴徒化した民衆――貧富の格差と政府への不満

 昨年12月28日、甘粛省金昌市永昌県の13歳になる少女が華東超市(華東スーパーマーケット)東街店でチョコレートを万引きした。少女はその日の昼、水しか飲んでいなかった。昼食のために学校から家に戻ってみると、テーブルの上にはわずかな小銭が置いてあるだけだった。華東スーパーがある広場でポップコーンを売っている父親に電話すると、その金で何か買って食べてくれという。少女は家で水だけ飲むと、その小銭で父親のためにうどんを買い、父親に届けた。お前が食べろという父親に「おなか空いてないから、いらない」と言い、その場を離れた。父親は無理やり別の小銭を少女に渡した。

 目の前には何でも売っているスーパーマーケットがある。

 少女は思わず店の中に陳列してあるチョコレートに手を伸ばしていた。

 家は貧乏で、チョコレートを買うお金などない。

 スーパーの監視カメラが少女の行動を撮っていた。

 店員に捕まり、客の前で激しい詰問が始まる。

「名前は?」「さっさと名前を言いなさい!」「学校はどこなの?!」「親の名前は?!」「親の電話番号を言いなさい!」

 店主も出てきて、容赦なく罵声を浴びせた。

 周りの客が、「もう、その辺でいいだろ?品物も返したんだし...。学校に戻してあげたら?まだ子供なんだし...」とかばうが、店主は引かない。

 少女は屈辱のあまり何も答えられず、ようやく母親の電話番号を言った。

 母親が来ると、店側はチョコレートの10倍はする150元を出せという(1元は約18円)。払わなければ警察に通報し、学校に通知すると脅した。

 しかし母親は10元しか持っていない。

 母親は娘を店で待たせ、ポップコーンを売っている夫のところに飛んでいき事情を話した。二人合わせてかき集めた金額は95元。急いで店に戻り、店主に有り金ぜんぶを渡した。

「だめだ! 足りない! 150元出さなければ警察に通報するぞ!」

 押し問答をしている内に娘の姿が消えていることに気がついた。

 ハッとした時には遅かった。

 少女は17階の屋上に行き、飛び降り自殺をしてしまったのである。

 翌日、千人以上の民衆が華東スーパーを囲み抗議を始めた。30日になると群衆の数は万を越え、暴徒化してしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

国内送金減税、円安対策で与党内に支持の声 骨太に記

ビジネス

三井物産、25年3月期の純利益15.4%減 自社株

ビジネス

ノルウェー政府年金基金、NGOなどがイスラエル投資

ビジネス

ルフトハンザとエールフランスKLMがコスト削減、業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中