最新記事

EU

「ユーロは意味を失う」、シェンゲン協定崩壊にEUが警鐘

国境検査なしで自由に往来できることを保証したEUの基本理念が危機に

2015年11月26日(木)17時00分

11月25日、欧州委員長は、「シェンゲン協定」が崩壊すれば単一通貨ユーロは意味を持たなくなると警告した。写真は破損した1ユーロ硬貨。ワルシャワで2012年9月撮影(2015年 ロイター/Kacper Pempel)

 欧州委員会のユンケル委員長は25日、欧州26カ国が締結する国境検査なしで自由に往来できる「シェンゲン協定」について、一部締結国が押し寄せる難民対策の一環として国境審査を再導入すれば、単一通貨ユーロを含む欧州連合(EU)の構造に政治的な影響が及ぶとの認識を示した。

 同委員長は欧州議会で「シェンゲン協定は欧州の構造の土台の1つである」とし、「同協定が崩壊すれば単一通貨ユーロは意味を持たなくなる」と警告。

 そのうえで「シェンゲン協定は『こん睡状態』にある」とし、「欧州の価値、原則、自由を信頼するなら、同協定の精神の蘇生に向け努力しなければならない」と述べた。

 シェンゲン協定はEU加盟国のうち22カ国が締結。残りの4カ国はEU非加盟国となっており、19カ国で形成されるユーロ圏とは法的枠組みが異なる。

 このためユンケル委員長の発言は政治的な意味しか持たないが、移民・難民問題でEU加盟国間の緊張が高まれば欧州の結束が揺らぐとの懸念を反映したものとみられている。

 難民流入に圧倒された西バルカン諸国は、シリアやアフガニスタン、イラクからの難民受け入れを制限し始めており、約1500人の難民がギリシャ北部で足止めされ、マケドニアに入国できないでいる。こうした状況のなか、ユンケル委員長の発言は警鐘にも受け取れる。

 国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は、こうした新たな制限について「亡命希望者を国籍に基づいて判断することは、亡命を希望するすべての人の人権を侵害するものだ。国籍を問わず、個々人の状況が検討されるべきだ」として非難した。

 シェンゲン協定の一部締結国がフェンスを建設して国境を封鎖したことで、さらに何万人もの難民がマケドニア、セルビア、クロアチアで立ち往生している。

 トルコからギリシャのエーゲ海諸島に新たに到着した難民の数は今週、良い天候にも関わらずペースが落ちている。これは、トルコ政府による密航業者の取り締まり強化が功を奏した結果かもしれない。

 トルコのダウトオール首相は、29日にベルギーの首都ブリュッセルでEU首脳陣と難民問題について協議する予定。この会合では、EUがトルコによる難民支援をサポートするため、2年間にわたり30億ユーロ(約3900億円)の基金を設立するなど、共同の行動計画の正式合意を目指すとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ピュリツァー賞、ロイターが2部門受賞 公益部門は米

ワールド

中仏首脳、イラン核問題の「政治的解決」訴え=中国国

ワールド

豪23/24年度予算、総債務減少の見込み=財務省

ワールド

豪中銀、政策金利据え置き 物価上昇圧力を警戒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 2

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中