最新記事

インタビュー

なぜ今、日本でSDGsへの関心が高まっているのか

2021年8月25日(水)12時45分
森田優介(本誌記者)

起点が違う、日本はヨーロッパと25年の差がある

――それから6年がたち、日本でもついにSDGsが動き始めたと。ヨーロッパなどに比べて遅れているという声もあるが、その差はどこにあるのか。

以前にヨーロッパを取材したときに感じたのは、特にエネルギーと環境に関しては、1986年のチェルノブイリ(原子力発電所事故)が大きいということだ。

言ってみれば、すぐ隣でメルトダウンが起きた。今後、原発に頼っている社会はまずいぞという感覚。取材に行くと、86年を起点に話す人がとても多かった。

あれ以来、ヨーロッパでは環境(問題の議論)が活発になったようだ。市民が起ち上げた「緑の党」をメディアがすごく応援したという話も、ドイツの研究者から聞いた。

チェルノブイリ事故があったとき、僕は学生だった。日本でも大ニュースだったと記憶しているが、直接何かが降りかかってくるわけではないし、やはり距離が遠い。

そういう意味で言えば、再生可能エネルギーに日本が関心を持ち始めたのは、(東日本大震災のあった)2011年以降だ。ヨーロッパとは25年の差がある。

――人々の行動を変えるという意味では、政策の影響力も大きいように思う。日本では例えば、昨年7月のレジ袋有料化が大きかったのではないか。

やはり、お金に関わることほど大きな影響を与える。それでみんながちゃんと考える、選択するようになる。

以前、スウェーデンを視察した際、あらゆることで選択肢を示され、非常にうまいなと感心した。選挙も選択行動の1つだが、例えばスウェーデンでは投票率が90%近くあり、合理的な選択ができる社会だ。

それだけでなく、魚など食品に「持続可能な方法で作られている」と示す認証のマークがあり、スーパーマーケットでは認証付き食品はコーナーが分かれて陳列されていたりする。持続可能かどうか、価格はどうか、それを比較して(消費者は)選ぶ。

スウェーデンにあるMAXハンバーガーというファストフードに行くと、ハンバーガー1つ1つに、価格とカロリーとCO2(二酸化炭素)排出量が書いてあった。カロリーを気にする人はカロリーで選べばいいし、価格を気にする人は価格で選べばいいし、環境を気にする人はCO2で選べばいい、という考えだ。

スーパーには瓶や缶を(リサイクルのため)返却できるボックスがあって、そこに瓶をごろりと入れると、日本円でおそらく20円程度が戻ってくるという仕組みになっている。黄色のボタンと緑色のボタンがあり、黄色を押すと自分に20円返ってくるけれど、緑色を押すとその20円が例えば途上国支援をしているNPOに寄付される。

市民が決めることが前提になっていて、政策でもビジネスでも常に選択肢を示して、人々の心理を誘導していくことに長けていると思った。市民社会が成熟している。

日本は残念ながら、そこが欠落している。今のコロナ対応を見ていてもそうだが、政治が国民に合理的な選択肢を示さず、人々のモラルに頼ったメッセージが多い。

コロナや気候変動も含め、サステナビリティーに関することはリスクの問題であり、リスクに対しては科学的、統計的な知見に基づいて判断したり、議論したりする土壌が必要で、そのためにはやはり教育が大事。市民が主語でディスカッションできる人がどんどん社会に出ていかないといけないと思う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英CPI、4月前年比+2.3%で予想上回る 利下げ

ビジネス

独連銀、インフレリスクを警告 賃金が予想以上に上昇

ワールド

中国、ロッキードなど米軍関連企業12社と幹部に制裁

ワールド

イスラエル軍、ラファ中心部近くへ進軍 中部でも空爆
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中