最新記事

韓国企業

サムスン李健煕会長の死去、巨額相続税で資金不足に陥る?

Samsung’s Patriarch Dies at 78

2020年11月2日(月)19時45分
ミッチ・シン

李健煕(中央)はサムスンを世界有数の企業に(2012年1月、ラスベガスのCES会場で) STEVE MARCUS-REUTERS

<功罪を併せ持った「中興の祖」が死亡、サムスンへの投資を引き揚げる動きが出る可能性も指摘されているが......>

サムスン電子の李健煕(イ・ゴンヒ)会長が10月25日、78歳で死去した。2014年に心臓発作で倒れ、意識のない状態が続いていた。

李はサムスンが世界的な大手エレクトロニクス企業に成長する礎を築いた人物として知られる。だが、経営者となってしばらくは困難な時期が続いた。

父でサムスンの創業者である李秉喆(イ・ビョンチョル)が1987年に死去すると、李は製品の品質向上と事業の拡大を決断する。サムスンは当時の西側先進国において、テレビと電子レンジのメーカーにすぎないと思われていた。

李が1993年、フランクフルトで従業員に向け、品質向上のために「妻と子以外の全て」を変えるよう呼び掛けたのは有名な話だ。それはサムスンが世界の大手企業との競争に打って出た瞬間だった。

ただし労働組合やいわゆるホワイトカラー犯罪に対する姿勢をめぐっては、世間からの厳しい批判にさらされた。

労組の結成を認めなかった父と同様に、李も「無労組経営」を貫いた。昨年6月には、25年前に組合活動が原因で解雇された元従業員が、ソウルのサムスン社屋前にある鉄塔の上で抗議の座り込みを始める騒ぎも起きた。座り込みは李の息子で現在の経営トップである李在鎔(イ・ジェヨン、52)が元従業員との和解の意向を示すまで355日間続いた。

会長になって以降、李は2度にわたって投獄された。1度目は1996年に盧泰愚(ノ・テウ)元大統領への贈賄罪で、2度目は2008年に脱税などで起訴され実刑判決を受けたためだ。だがそれぞれ、次の年には恩赦を受けて釈放された。2度目の恩赦を決めた李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)は後に、サムスンから巨額の見返りを受け取ったとして懲役17年の実刑判決が確定している。

2012年にサムスン電子の副会長に就任した後継者である在鎔は、会社による違法行為をめぐる裁判で追及の矢面に立たされている。彼もまた、朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄で有罪判決を受けて、収監されたことがある。

巨額過ぎる相続税の額

韓国メディアは、在鎔が支払わなければならない相続税は10兆ウォン(約9300億円)以上と伝えている。この巨額の相続税を理由にサムスンへの投資を引き揚げる動きが出る可能性も指摘されている。

だが延世大学のチョン・トンイル教授はディプロマット誌に対し、相続税は大した問題にはならないと語った。

「在鎔は2014年に父親が倒れて以来、6年間にわたって会社を経営してきた。いつかこうなることは分かっていたわけで、現時点でサムスンの経営トップに関して心配するようなことは何もない。サムスン電子株を担保に銀行から金を借りれば、数年かけて払えるはずだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ケニア大統領、ホワイトハウス訪問 サハラ以南で初の

ビジネス

インフレなお懸念、利下げまで「忍耐強く」ある必要=

ワールド

仏大統領、ニューカレドニア視察 選挙改革の延期表明

ビジネス

マスク氏、バイデン氏の対中関税引き上げに反対 「市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 4

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 5

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 6

    韓国は「移民国家」に向かうのか?

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中