最新記事

テクノロジー

タブレット戦争でiPadに勝つ法

HPは撤退、サムスンもソニーもパッとしないタブレット型端末市場で、アップルに勝負を挑むアマゾンのロースペック戦略

2011年10月14日(金)16時04分
ファハド・マンジュー

予想的中? 9月28日にアマゾンが発表した「キンドル・ファイア」を試す記者たち Shannon Stapleton-Reuters

 ヒューレット・パッカード(HP)は8月18日、タブレット機「TouchPad」の生産中止を発表した。といっても、意外だったのは決断の速さと思い切りの良さくらいだ。過去1年間にアップルのiPadに対抗して発売されたタブレット型端末は、主なものだけでもTouchPadを含めて4つ。どれも失敗しているが、ほとんどのメーカーは往生際が悪い。

 その点、HPは潔い。7月に発売されたTouchPadはHPの触れ込みとは大違いだった。バグが多く、アプリケーションが不足し、持ってみると安っぽく感じた。売れないのも無理はなかった。HPは現実を認めた──誰がiPadよりもTouchPadを選ぶだろう?

 HPの決断で、アップルのほかのライバルたちも目を覚ますはずだ。彼らも不採算部門から撤退して戦略を見直すべきだ。

 タブレット市場を制したいメーカーはどこも、iPadを上回るスペックを約束してきた。iPadより速い、あるいは制約が少ない──アドビ・フラッシュが使えるし、USBなどのスロットのおかげでより多くの周辺機器を接続できる、と。

 その戦略は失敗した。iPadの累計販売台数は6月末で2500万台、今年末までにその2倍に達する見込みだ。人々はiPadの「欠点」を気にするどころか、むしろ魅力の一部と考えている。パソコンの代わりにiPadを買うわけではなく、パソコンから逃れたくて買う。メールやネットや動画を楽しむには、iPadのほうが便利で簡単だ。

 だから、iPadより多くのことができると訴えるのは無意味だ。タブレット市場では、面倒な思いをして多くのことができるより、「より少ないことをより完璧にやれる」ほうがいい。

カメラもなく速くもない

 そこで提案。iPadより少ないことをより完璧にできるタブレットを作るべきだ。iPadより遅く、フラッシュは使えない。テレビ会議や映像編集もできない。マルチタッチなんて論外。バッテリー駆動時間もiPadにかなわない。

 その代わり、大量の本や音楽や映画のライブラリーに瞬時にアクセスできる。薄くて軽く、すぐに起動し、ユーザーインターフェースは滑らかで直感的。アプリケーションのストアでは、あまり速くないプロセッサでサクサク動くアプリだけを売る(パズルゲームはできるが、3Dの射撃ゲームは無理という具合)。極め付きは価格で、200ドルという安さだ。

 こんなことができるのは、アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOしかいない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は7月、アマゾンがタブレットを今秋にも発売すると報じた。記事によれば、グーグルのOS「アンドロイド」がベースで、カメラは搭載しない。

 ITジャーナリストのジョン・グルーバーによると、アマゾンは自社のタブレット用にアンドロイドの仕様を変更。安価なタッチスクリーンを使用し、マルチタッチ機能も10本の指を認識するiPadと違い、指2本だけという噂もある。

 カメラも、凝ったマルチタッチもなし。アマゾンはiPadより少ない機能のタブレットを作ろうとしているらしい。そうなると問題は、より完璧にできるかどうかだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中