コラム

前代未聞の「宮殿撮影」プロジェクトを完遂した、ロシアのコンセプチュアリスト

2016年01月26日(火)14時58分

 だが、彼女の本当の魅力は、作品の奥底から解き放たれて絡みつくような不思議な感覚だろう。ロシア独特のある種"宮廷的な"匂いだ。優雅さとワイルドさ、セクシーさ、それに退廃した雰囲気が見事に絡み合っているのである。カティア・ミ自身、意図的にそうしたものを作品に加えようとしているという。

 とはいえ、そうした感覚は、簡単に生み出せるものではない。1つ1つの要素が噛み合わなければ、魅力はなくなってしまう。それどころか鼻につくだけで終わってしまう。ロシアの伝統と文化的なバックグラウンド、それに時代と彼女の才能とが見事に絡み合って生まれたのである。

 近年、彼女はインスタグラムを通して、前代未聞とも言えるやり方で大プロジェクトを完遂した。ロシアの象徴であるクレムリン(上の写真)、エルミタージュ美術館、ボリショイ劇場などを含む歴史・文化遺産との、その場そのものを借用してのコラボレーションだ。撮影許可を取るだけで大変である。事実、クレムリンなどは、インスタグラムのプロジェクトとして初めてだったこともあり、許可を得るまでに5カ月もかかったという。プラス、スタッフや衣装、移動、滞在をアレンジするのに多大な費用と時間、エネルギーがかかる。それらを実質上全て、彼女自身の資金とコネクションによりプロデュースしているのである。

 目的は大きく分けて2つある。1つは、ロシアの歴史・文化的イコンに新たな存在価値を見出すこと。もう1つは、プロジェクトを通して若者たちによる新しい文化を作り出し、同時にロシアのアートと歴史に対し、彼ら自身の愛を喚起させることである。最も影響力を持つソーシャルネットワークの1つになったと言われるインスタグラム、そしてそのインスタグラムで50万人以上のフォロワーを持つカティア・ミ――新たな時代の扉が開けられるかもしれない。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
_ K ▲ T I A@katia_mi
_ K ▲ T I A ● c o l o r f u l @katia_mi_

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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