コラム

「手を上げない消極的日本人」の正体とは?(パックン)

2023年04月22日(土)16時08分

もちろん、全国の全小学校にこんなシステムがあるわけではない。それでも、全国でも状況は似ているようだ。指される前に発言しない。周りに合わせて、誰も手を上げていないなら、自分も上げない。とにかく、静かに先生の話を聞く。これが日本の「普通」だと思われる。

僕が通った米コロラド州の公立小学校の普通はその正反対。指される前に発言する。周りに合わせず、自発的に手を上げる。とにかく、うるさくして、先生の話を聞かない!

まあ本当は先生の言うことを聞いてはいたが、先生の言うことのなかには「たくさん手を上げて!」という教訓がしっかり入っていた。

 母校の壁にも張り紙があった。その内容は:
 The only stupid question is the one not asked.
 (唯一の馬鹿な質問は聞かれなかった質問だ。)

だいたい初回の授業に先生がこれを読み上げる。もちろん、クラスの中には笑いを取ろうとして「先生の暗証番号は?」とか「馬鹿な質問」に挑戦するヤツがいるけど、先生は「初カノの誕生日」とか、うまくかわすんだ。

「学力」で下位のアメリカが人材を輩出する訳

さらに、情報を「教える」ときも、一方的にしゃべるのではなく、先生が質問して学生が考えて答え、後に正解や先生の見解を伝える。グループに分けてディスカッションすることも、プレゼンすることも、学生がお互いに教えあうこともある。日本よりもはるかに発言するチャンスが多いのだ。

当然、こういうやり方だと授業の進行が遅くなる。その結果、アメリカの学生が覚える情報の量は日本の学生より少ない。平均的な学生が到達する数学や化学のレベルも日本より低い。だからPISA(OECDの学習到達度調査)の3分野の合計点で日本が世界4位のところ、アメリカは21位。でも、大丈夫! PIZZAだとアメリカが世界1位だから!

しかし「学力」が低いアメリカがイノベーターも起業家もリーダーもアーティストも大量に輩出しているのだ。おそらくアメリカ人は情報を吸収するより、気になることを聞いて、考えていることを伝えて、怪しいことを疑って、改善策を提案して、そして、やれることをやるからだ。そんな参加型で積極的に生きる精神を学校でも学んでいるのではないでしょうか。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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