コラム

韓国の宿主とパラサイトを生む格差社会 『パラサイト 半地下の家族』

2019年12月26日(木)15時30分

カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

<カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたポン・ジュノ監督の新作は、この監督ならではの洞察で韓国の格差社会が描かれる ......>

カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたポン・ジュノ監督の新作『パラサイト 半地下の家族』では、韓国の格差社会がこの監督ならではの洞察、発想、演出、ヴィジュアル、ストーリーテリングを駆使して描き出される。

半地下住宅の全員失業中の一家と高台の豪邸のIT企業社長

主人公は、むさ苦しい"半地下住宅"に暮らすキム一家だ。事業で失敗を繰り返してきた父親ギテク、元ハンマー投げ選手の母親チュンスク、大学受験に失敗し続けている息子ギウ、美大を目指してはいるが、予備校に通う余裕もない娘ギジョン。彼らは全員失業中で、業務用のピザ箱を組み立てる内職で糊口をしのいでいる。

半地下は人が生活するのに適した環境ではない。水圧が低いためトイレが異様に高い位置に設置されている。窓が地面の真上にあるため、あまり日が射さず、湿気がこもる。窓を開けていれば、路上に散布される消毒剤が入ってくる。泥酔した通行人に迷惑をかけられる恐れもある。

だがある日、転機が訪れる。ギウの友人のエリート大学生が留学することになり、ギウが彼に代わって女子高生の家庭教師を務めることになる。ギウは、器用な妹が偽造した大学在学証明書を手に、女子高生の家に向かう。そこはIT企業の社長パク・ドンイクが妻子と暮らす高台の豪邸だった。

パク一家の母親と娘の信頼を得たギウは、母親や家政婦が落ち着きのない末っ子に手を焼いていることを知り、知人の家庭教師を紹介する。そして今度はギウの妹が身分を偽って豪邸に現われ、末っ子を手なずけていく。

監督の要望もあり、ストーリーに触れられるのはここまでだが、前半については「パラサイト(寄生虫)」というタイトルからある程度、想像できるだろう。だがその後には、予想だにしない展開が待ち受け、ドラマはジャンルを縦断するように加速していく。

ポン・ジュノ監督は韓国社会の変化をどのようにとらえてきたのか

そこでここでは、内容に踏み込む代わりに、これまでポン・ジュノが韓国社会の変化をどのようにとらえてきたのかを振り返ってみたい。彼の代表作である『殺人の追憶』(03)については、以前に『1987、ある闘いの真実』を取り上げたときに少し触れた。この映画では、80年代後半にソウル近郊の農村で起きた未解決連続殺人事件という題材とその背景となる軍事政権や北の脅威、民主化運動、工業化などが緻密に結びつけられ、とてつもなく深い闇として表現されていた。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story