コラム

東芝は悪くない

2017年03月28日(火)16時00分

現在最大の関心を集めている、原発の建設会社を買収したこと、これも同じ理屈である。建設コストが上昇して、建設が立ち往生していた。訴訟も頻発していた。このままでは事業が遂行できない。そこで、将来のさらなる建設コストの上昇というリスクをものともせず、誰もが逃げる地雷のような建設会社を0ドルで買い取ったのである。

そして、これらはすべて不正のためではない。自分たちががんばって行ってきた事業を成功させるため、魂をこめた製品、事業を継続させるためなのである。

結論は2通りある。

普通の考え方をすれば、利益よりも事業を優先させる、という職人魂のような誤った考え方を捨ててすべては利益のために、リスクを最小化し、リスクを上回る利益のあるときだけリスクをとる、ということを徹底することである。

日本の部品メーカーがダントツ

もう一つの道は、職人魂は捨てられないから、そして、それが唯一の日本企業の世界に対するアドバンテージであるから、それを最大限活かすために、社運を賭ける投資は絶対にせずに、カネを賭ける投資は最小限にし、リスクを徹底的に排除し、いい製品を作る、事業を成功させる、ということだけに集中するだけですむような企業経営構造にすることである。

例えば、日本の部品メーカーが世界ダントツなのは、そういう理由からである。

東芝にとって、現在のリスクは米国原発事業だ。その事業が本来悪い。だから、原発事業でリスクを東芝に押し付けて、自分たちはリスクをとらずに利益を上げようとしているプレーヤーたちと戦うしかない。そこに利益が逃げていくこと、カネが流れ出してしまうことだけが問題だから、WHは当然倒産させて、東芝本体をできるかぎり隔離する。そして、半導体事業の売却益も、できる限り、米国原発事業に流れ出ないように押しとどめるためのスキームが必要である。

そのスキームの基本構造は考えれば誰でもわかることなので(実際に実現させるのは、とてつもなく複雑なスキームの詳細が必要になるだろうが)、ぜひ、政府も東芝もその他関係者もしぶとくそのスキームを実現させてほしい。


【参考記事】東芝不正会計の本質は、「国策」原発事業の巨額損失隠し
【参考記事】東芝の不正会計、ガバナンスの何が問題なのか?

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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