コラム

英国EU離脱は、英国の終わり、欧州の衰退、世界の停滞をもたらす

2016年06月24日(金)19時32分

EU離脱決定後のロンドンのディーラー Russell Boyce-REUTERS

 英国の国民投票は、EU離脱支持が残留支持を上回り、今後2年をかけて離脱することが決まった。ただし、政治的に、これをもう一度やり直すという可能性もないとは言えず、100%決定ではないが、95%は離脱決定と考えていいだろう。では、離脱となると、今後の世界はどうなるか。

 まず、英国経済は終わりである。

 例えばスイスはEUではないがうまくやっているではないか、という論理は2つの意味で間違っている。第一に、もともと加盟していないまま加盟しない、ということと、加盟していた国が離脱したのは違うということだ。EU加盟国という理由で日本の支社もEUの中で1カ所選ぶとすればロンドン、ということだったので、多くの日本企業は英国から撤退するだろう。ほかの国も同様であり、EU諸国との関係は弱まり、移動の自由もなく、関税もかかる。人々は意識していないかもしれないが、英国はEU経済に依存しているのだ。

【参考記事】イギリスがEU国民投票で離脱を決断へ──疑問点をまとめてみた

 もうひとつは、離脱となれば混乱する。国内は2つに割れる。

 社会が混乱する中で経済は発展できない。今後、国内は二分され続けるだろう。社会の分断、それがもっとも社会を経済を壊す。しかも、離脱しないと高をくくっていたのはエリートたちだ。金持ち達であり、投資家たちだ。そして、キャメロン首相はパナマ文書にも名前が挙がっていたこともあり、その象徴だ。

 エリート社会と低所得者社会がもともと分断しているところに、この投票結果はそれを決定付けるものとなる。ロンドンは荒れ、良いところも悪いところもある魅力的な都市だが、次第にそのメリットを失っていき、投資も人々も出て行くことになろう。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 欧州経済も大きなダメージを受ける。

EU諸国に広がる離脱願望

 英国で離脱派が力を持ったのは、もともと英国人は欧州人でない、大陸が欧州であり、英国は英国だ、という文化があったことも大きいが、それが今勢いづいた理由は、移民だ。移民の問題は欧州全体の問題だ。多くの国、とりわけ経済的に豊かな国、うまく行っている国ほど、移民の問題は大きい。国民に根強い反対があるからだ。英国が離脱なら、うちも、ということに当然なる。ドイツ、フランスなど有力国では確実に起こるだろう。

【参考記事】英国のEU離脱は、日本の誰が考えているよりも重い

 ただ、英国と違って、彼らは欧州そのものだ。だから、欧州統合に対する反発はない。そして、もっとも恩恵を受けてきたのも、この2国だ。だから、離脱はない。

 しかし、問題なのは、国内に離脱派が力を持つことになり、彼らを納得させるためにはコストがかかるようになるということだ。社会が分断するというのは、社会経済にとって大きなマイナスだ。移民問題と離脱問題でいえば、低所得者はあからさまに「移民反対、離脱賛成」なのに対し、インテリ、金持ちは統合の恩恵を最も受けているし移民の影響は受けていないから「移民に寛容、離脱反対」となり、社会の分断は深まる。これは社会を弱くし、経済を弱める。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、凍結ロ資産活用へ大詰め協議 対ウクライナ金融

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長候補の最終面接を今週開始

ワールド

トランプ氏、メキシコなどの麻薬組織へ武力行使検討 

ビジネス

米国株式市場=S&P小幅安、FOMC結果待ち
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story